書評
『古本屋の女房』(平凡社)
壮絶、そして愉快
どんな商売にもそれぞれの苦労というものがあるに違いない。私と古本屋さんとのお付き合い長く、高校生のころから学校の行き帰りに親しんで来たのだから、思えばもう四十年ほどになる(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2005年)。
この本は、横浜で古書店経営に携わってきた著者(厳密に言うと、古書店主はその夫で、著者自身は校閲・校正のプロ)が、一般の人の目に触れないところで行われている古書の仕入れ苦心談などのあれこれを、正直すぎるほどの文章で綴ったエッセイ集であり、かの出来根達郎さんの本とは違った意味でとても面白かった。
なにせ彼女は男女二児のお母さんなのだが、夫が凝り性で商売っ気に乏しいこともあって、仕入れと子育て、家事、そして校正の仕事と、八面六臂の大わらわで暮しを支える。これがじつに活き活きと描かれていて涙ぐましい。
例えば、古書を他の店の店頭に漁って仕入れることを「セドリ」というのだが、著者は、あるときは一人、あるときは大きなお腹を抱え、また乳飲み子を抱きつつ、更には幼児の手を引いて、苦心惨憺、山のような古書をせどってエンヤラエンヤラと持ち帰る。一読三嘆、母は強しとはこれである。
けれども、そうやって子どもまで交えて一家総出で家業に汗を流すなんてのは、現代ではずいぶん稀な風景になってしまったような気がする。なんだかこういう家庭が、昔は町にも農村にもあったよなあ、と妙に懐かしいのだ。とはいえ、こんなことまで正直に書いちゃっていいのかなあと、ちょっと心配にさえなってしまうところもあって、ついつい一気呵成に通読してしまったことだった。
本書を読むと、古書店を見る目が少し変るかもしれない。
初出メディア

スミセイベストブック 2005年11月号
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