書評
『新装版 ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙』(NHK出版)
ノルウェーの作家、ゴルデルの『ソフィーの世界』が世界中で爆発的な売れ行きという。翻訳で六〇〇頁以上、ずしりと重たいが、読めばなるほどベストセラーと納得の出来ばえだ。
十四歳の少女ソフィーがある日の午後、「あなたはだれ?」と書いた手紙を受け取る。中年の哲学者アルベルトとの不思議な交流の始まりである。以後、小包みが届くたび、プラトンやアリストテレス、トマス・アクィナス、デカルト、ヘーゲルといったおなじみの哲学者たちの世界が、ソフィーを新鮮な発見の喜びで満たしていく。
そしてもう一人、同い年の少女ヒルデの謎。ソフィーにはなぜか、ヒルデあての絵はがきも届くのだが、やがて意外などんでん返しが待っている。これは読んでのお楽しみ。
こみいった、目のくらむようなストーリーの組み立ては、エンデの『はてしない物語』とそっくりだ。違うのは、フィクションでなしに、しっかり本物の哲学がお勉強できること。ベルリンの壁が崩れ、マルクス主義が店じまいしたあと、行き先なしの迷走状態でふらふらの地球には、ぜひとも道しるべが必要だ。それを人びとは、哲学に求めるのだろう。
著者ゴルデル氏は、高校で長年哲学を教えていただけあって、ツボを押さえた講義はなかなか見事だ。フッサールやハイデガー、ヴィトゲンシュタインといった二十世紀哲学がすっとばされているのが残念だが、スタンダードな西欧哲学の伝統が、これほど生き生きとコンパクトに整理されているのは見たことがない。そのまま大学教養課程のテキストに使えると「解説」にあるが、その通りだ。
池田香代子さんの翻訳もすぐれもの。カントの理論理性に「あたまのなかのりくつ」とルビをふるなど、なかなか冴えている。わが国も折から哲学ブームで、わかりやすい入門書が書棚にずらりと並んでいるが、本書を選べば間違いなし。二千五百円はほんとうにお買い得です。
【この書評が収録されている書籍】
十四歳の少女ソフィーがある日の午後、「あなたはだれ?」と書いた手紙を受け取る。中年の哲学者アルベルトとの不思議な交流の始まりである。以後、小包みが届くたび、プラトンやアリストテレス、トマス・アクィナス、デカルト、ヘーゲルといったおなじみの哲学者たちの世界が、ソフィーを新鮮な発見の喜びで満たしていく。
そしてもう一人、同い年の少女ヒルデの謎。ソフィーにはなぜか、ヒルデあての絵はがきも届くのだが、やがて意外などんでん返しが待っている。これは読んでのお楽しみ。
こみいった、目のくらむようなストーリーの組み立ては、エンデの『はてしない物語』とそっくりだ。違うのは、フィクションでなしに、しっかり本物の哲学がお勉強できること。ベルリンの壁が崩れ、マルクス主義が店じまいしたあと、行き先なしの迷走状態でふらふらの地球には、ぜひとも道しるべが必要だ。それを人びとは、哲学に求めるのだろう。
著者ゴルデル氏は、高校で長年哲学を教えていただけあって、ツボを押さえた講義はなかなか見事だ。フッサールやハイデガー、ヴィトゲンシュタインといった二十世紀哲学がすっとばされているのが残念だが、スタンダードな西欧哲学の伝統が、これほど生き生きとコンパクトに整理されているのは見たことがない。そのまま大学教養課程のテキストに使えると「解説」にあるが、その通りだ。
池田香代子さんの翻訳もすぐれもの。カントの理論理性に「あたまのなかのりくつ」とルビをふるなど、なかなか冴えている。わが国も折から哲学ブームで、わかりやすい入門書が書棚にずらりと並んでいるが、本書を選べば間違いなし。二千五百円はほんとうにお買い得です。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 1995年9月3日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
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