書評
『移民社会フランスの危機』(岩波書店)
暴動が示した「平等」の国の袋小路
05年秋、パリ郊外で暴動が頻発した。数千台の車に火が放たれた原因は、主にマグレブ系(北アフリカ出身のアラブ人)移民青年の社会的不満だった。だが、理性=言(ロゴス)語を尊ぶフランスの一般市民は、言葉なき不満を暴力で表した移民の行動に冷淡だった。本書の著者は、この暴動の根本に、遠く大革命にまで遡(さかのぼ)るフランスという国家の本質的な問題があると指摘し、その理由を丹念に論じている。
フランス大革命は、自由、平等、友愛(博愛ではない。友愛は共同体内部での連帯を意味するからだ)を共和国の標語とした。とくに重視されるのは平等で、これは英米などで自由が前面に出されるのと対照をなしている。
フランス的平等の特徴は、市民が〈個人〉として法の下で等しく権利を認められることだ。国家の下に直接個人が存在するのであり、その中間にいかなる政治党派や宗教や民族による区別も認めない。
つまり法律上、民族的なマイノリティーは存在せず、国勢調査などで民族的出自のデータ収集は禁じられている。
ところで、外国人の両親からフランスで生まれた子は、11歳から5年以上フランスに居住していれば、成人した時点でフランス国籍を取得できる。したがって、暴動の主体となった移民の「第2世代」といわれる若者たちは基本的にフランス人であり、法の下の平等を保障されているのだ。
だが、法の下の平等は実質的な平等ではない。移民の子は移民であり、就職や居住地域に厳然たる差別が存在する。にもかかわらず、フランスの法体系は民族的マイノリティーという概念を否定しているので、フランス人になった移民を公的に救済することは難しい。これが移民問題をめぐってフランスが陥った袋小路である。移民青年たちの暴動は、そうしたフランス的平等という国是そのものを問題にしていたともいえる。
一朝一夕に乗りこえられる危機ではないが、著者は様々な取り組みを紹介している。世界がグローバル化する今、これはフランスだけの問題ではない。ここから日本が学ぶべきことはあまりにも多い。
朝日新聞 2007年01月21日
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