書評

『ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー』(晃洋書房)

  • 2020/07/27
ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー / 水野 英莉
ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー
  • 著者:水野 英莉
  • 出版社:晃洋書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(204ページ)
  • 発売日:2020-04-03
  • ISBN-10:4771033560
  • ISBN-13:978-4771033566
内容紹介:
「ただサーフィンがしたい。(I just want to surf)」日常に戻らなければならないときにサーファーがよく口にすることば。それは、私にとっては、「女性」のサーファーであることを繰り返し… もっと読む
「ただサーフィンがしたい。(I just want to surf)」
日常に戻らなければならないときにサーファーがよく口にすることば。
それは、私にとっては、「女性」のサーファーであることを繰り返し迫られることへの抵抗感を含んでいた。
本書は、日本に生まれ育ち、女性であり、社会学の研究者である私が、どのようにサーファーになり、ジェンダーについて考え、サーフィンを基軸としたライフスタイルを作っていったのかを記録したものである。

ハラスメントや差別が波の上を漂っている

自分に一切かかわりのない世界に対し、偏見で埋め尽くしてしまうことって誰にもあるはず。自分にとって「サーファー」がそうだった。人付き合いが柔軟、仲間を大切にする、だが、マッチョで女性への人権意識が低い。「いい波が来た」と言いながら、自然に感謝したりしている。

この偏見がどうやって培われたかといえば、ドラマや映画、ドキュメンタリーなどで見かけた光景の集積だ。ただそれは、あくまでも身勝手に、記号的に処理しただけだ。実際はどうか。自身もサーファーである研究者が、女性の立場からサーフィンという身体文化を考察した一冊。やはり、軸となるのは「波の上がいかに『男たち』のものであるか」である。

着替えやお手洗いの問題、いわゆる「女性のみだしなみ」と対立せざるをえない特性、そして、着替え中に別のサーファーや観光客などから「口笛を吹かれたりする『キャットコール』(路上でのセクシュアル・ハラスメント)」の横行。

かつて、潮の満ち引きを調べるための「ビーチコーミング」という潮見表には、ナンパのテクニックや風俗店の紹介などが掲載されていたという。「嫁入り前の娘なんだから気をつけてね」など、身体への「配慮」は女性だけに向かう。

サーフィン文化の中で「白人、ヘテロセクシュアル、健康、男性、サーフィンのコアな参加者(アスリートやローカル)」が「良いサーファー」とされてきた。波の上の世界の慣習は、多くのスポーツ界に共通することであり、もっと広げれば、社会全体に共通してきたとも言える。

女性であることから逃れられない世界。そして、自分が投じてきたように、外部からの偏見が保たれてしまう世界。そこに残っている「抑圧」を知った。
ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー / 水野 英莉
ただ波に乗る Just Surf―サーフィンのエスノグラフィー
  • 著者:水野 英莉
  • 出版社:晃洋書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(204ページ)
  • 発売日:2020-04-03
  • ISBN-10:4771033560
  • ISBN-13:978-4771033566
内容紹介:
「ただサーフィンがしたい。(I just want to surf)」日常に戻らなければならないときにサーファーがよく口にすることば。それは、私にとっては、「女性」のサーファーであることを繰り返し… もっと読む
「ただサーフィンがしたい。(I just want to surf)」
日常に戻らなければならないときにサーファーがよく口にすることば。
それは、私にとっては、「女性」のサーファーであることを繰り返し迫られることへの抵抗感を含んでいた。
本書は、日本に生まれ育ち、女性であり、社会学の研究者である私が、どのようにサーファーになり、ジェンダーについて考え、サーフィンを基軸としたライフスタイルを作っていったのかを記録したものである。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2020年5月24日号

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