書評

『英国ガーデニング物語』(集英社)

  • 2023/05/17
英国ガーデニング物語 / チャールズ・エリオット
英国ガーデニング物語
  • 著者:チャールズ・エリオット
  • 翻訳:中野 春夫
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:1999-04-05
  • ISBN-10:4087733076
  • ISBN-13:978-4087733075
内容紹介:
ひとはなぜ庭仕事を愛するのか。根っからの園芸好きであるアメリカ人ジャーナリストがみずからをイギリスの大地へと「移植」。外国人の視点から、英国ガーデニングの驚くべき奥深さをユーモアたっぷりに分析する。
私も愛好するガーデニングが、一過性のブームを超え、都市生活にすっかり定着したように見えるこの時期に、タイムリーな本が出たと思ったら、いささか勝手が違っていた。日本人が得意とするちまちました箱庭的楽しみとは無縁、自然との格闘や、壮大な土木工事をガーデニングと考える、アメリカから移住したジャーナリストの語る話を集めた本なのである。原題は『移植された園芸家』。著者は園芸に惹かれる理由を、「植物相手の人間の努力が一つの形となって、それじたい独立した世界をつくりあげてしまう」からだと言う。それこそ物語にほかならない。

著者はイギリスの雨の多さにあきれ、アメリカで使うシャヴェルが売られていないことを嘆き、イギリス人が巨大な野菜作りにかける執念に目を見張る。品評会で勝つために、園芸家の中には経口避妊薬をまぜた水を野菜に与える者もいるという。発情ホルモンの働きで、水をたくさん吸うようになるらしい。ときには目方を増やすために鉛を差し込んだりすることもあるようだ。

森の中でブルーベルが一斉に咲き、地面が青い絨毯で敷きつめられていく様を描く叙情的なエッセーや失われた庭園について語るロマンチックなエッセーも魅力的だが、興味を惹かれたのは、アメリカでは発達が遅れたという園芸の美学である。これはイギリス人の階級意識と関係があるらしい。つまり根底をなすのは貴族的趣味なのだ。けれど、もっと面白いのは、議論好きな彼らが自分の嫌いな植物に浴びせる罵詈雑言の数々で、「植物のいわば新興住宅地住民である」アザレアだとか、「ディナーにはぜったいにお呼びしたくはない肥満の株式仲買人」のシャクナゲといった表現には、花には申し訳ないが笑ってしまう。傑作は、「だらしない根っこ」、「ただの根っこより性質が悪い」野菜。ジャガイモのことだ。植物をこよなく愛しながらジャガイモだけは忌み嫌った男の話は第二部の「奇人・変人・偉人列伝」で語られる。ときおり覗くユーモアとアイロニーが快い本である。
英国ガーデニング物語 / チャールズ・エリオット
英国ガーデニング物語
  • 著者:チャールズ・エリオット
  • 翻訳:中野 春夫
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:1999-04-05
  • ISBN-10:4087733076
  • ISBN-13:978-4087733075
内容紹介:
ひとはなぜ庭仕事を愛するのか。根っからの園芸好きであるアメリカ人ジャーナリストがみずからをイギリスの大地へと「移植」。外国人の視点から、英国ガーデニングの驚くべき奥深さをユーモアたっぷりに分析する。

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翻訳の世界

翻訳の世界 1999年11月

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