書評

『忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相』(筑摩書房)

  • 2017/07/12
忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相  / 丸山 眞男
忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相
  • 著者:丸山 眞男
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(499ページ)
  • 発売日:1998-02-01
  • ISBN:4480083987
内容紹介:
開国の時期における、自我の原則と所属する集団・制度への忠誠との相剋を描き、忠誠と反逆という概念を思想史的に位置づけた表題作のほか、幕藩体制の解体期から明治国家の完成に至る時代を対象とした思想史論を集大成。『古事記伝』のなかに、近代にいたる歴史意識の展開を探る「歴史意識の『古層』」を付す。
世界的に著名な政治学者、丸山眞男氏の待望久しい論集が刊行された(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1992年)。

丸山氏は、その業績と影響力が巨大であったわりに、公刊された著作は意外に少ない。今回の『忠誠と反逆』は、明治維新前後の激動の時代を論じる。江戸儒学を扱う『日本政治思想史研究』と、戦前の調国家主義を扱う『現代政治の思想と行動』、この二つの主著にまたがり、近代日本の政治思想史を一望できる構想になっている。

取り上げられているのは佐久間象山、中江兆民、福沢諭吉、岡倉天心、内村鑑三……といった多彩な顔ぶれ。いずれも傑出した人物ではあるが、時代の用意する枠のなかに収まり切れず、各人なりの悲劇を生きぬいた思想家たちである。丸山氏は彼らの個人資料を、その時代背景と綿密に照合し、そこに日本人の精神の思想史的な真実を浮かびあがらせていく。

丸山氏が本書に集めた論文を貫くモチーフは、巻頭の「忠誠と反逆」に鮮やかだ。《忠誠も反逆も……自我を超えた客観的原理、または自我の属する上級者・集団・制度など、にたいする自我のふるまいかた》なのである。尊皇攘夷をかかげて幕府に反旗をひるがえした志士たち。明治政府の行き方に命がけで抗した不平士族や民権運動の人々。彼らの抱いていた正統性の観念とその限界が、その後日本の政治的進路を決定づけた。そして現在の我々をもとらえている。

本書で痛感したのは、丸山氏の孤独だ。氏は才能豊かな、真面目な学究である。しかし時代が、氏を戦後知識人のスターに押しあげた。氏も戦後民主主義に夢を託したけれど、次第に幻滅に打ちのめされていく。

思想史という自分の方法について、氏は驚くほど謙虚である。自分は理解されず、後継者も育っていない。人々の政治意識も未熟なままである。丸山氏の不幸。それは、氏が全力で研究して悔いないだけの政治思想家が、日本に育たなかったことではなかろうか。

【この書評が収録されている書籍】
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003 / 橋爪 大三郎
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003
  • 著者:橋爪 大三郎
  • 出版社:海鳥社
  • 装丁:単行本(382ページ)
  • ISBN:4874155421
内容紹介:
1980年代、現代思想ブームの渦中に登場以来、国内外の動向・思潮を客観的に見据えた著作と発言で論壇をリードしてきた橋爪大三郎が、20年間にわたり執筆した書評を初めて集成。明快な思考で知られる著者による、書評の最良の教科書。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相  / 丸山 眞男
忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相
  • 著者:丸山 眞男
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(499ページ)
  • 発売日:1998-02-01
  • ISBN:4480083987
内容紹介:
開国の時期における、自我の原則と所属する集団・制度への忠誠との相剋を描き、忠誠と反逆という概念を思想史的に位置づけた表題作のほか、幕藩体制の解体期から明治国家の完成に至る時代を対象とした思想史論を集大成。『古事記伝』のなかに、近代にいたる歴史意識の展開を探る「歴史意識の『古層』」を付す。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 1992年8月23日

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