書評

『海底に眠る蒙古襲来: 水中考古学の挑戦』(吉川弘文館)

  • 2020/09/30
海底に眠る蒙古襲来: 水中考古学の挑戦 / 池田 榮史
海底に眠る蒙古襲来: 水中考古学の挑戦
  • 著者:池田 榮史
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:2018-11-16
  • ISBN-10:4642058788
  • ISBN-13:978-4642058780
内容紹介:
元寇船が発見された長崎県の鷹島海底遺跡。遺物探査や実測作業などはいかに行われたか。試行錯誤で進められた調査過程を紹介する。

水中考古学への手引き

「蒙古襲来」、この言葉を聞いて胸の奥が熱くなるのは私だけではないだろう。「蒙古軍が攻めてくる!」、13世紀後半、鎌倉時代の日本を揺るがしたこの大事件は「元寇(げんこう)」と呼ばれ、我が国では小学校から歴史の授業で必ず学ぶものだ。その戦闘を如実に示す証拠が、今も伊万里湾の海底に眠っている。「鷹島海底遺跡」である。

本書は、琉球大学の池田榮史教授が、多くの考古学者が挑戦するもなし得なかった「元軍船の発見」という歴史的快挙を、世界で初めて成し遂げた瞬間をクライマックスとし、発見に至る詳細な経緯と経過を含めた調査手法、そして、今後の目標について書き起こされたものである。

私は冒頭の数ページで完全にノックアウトされた。プロローグがクライマックスなのだ。著者自らが潜水し、目の当たりにしたものが元軍船であると認識した瞬間の情景、うれしさとこれまでの長い苦労の気持ちが鮮明に感じられ、読む者がまるでその海の中に一緒にいるかのような錯覚にとらわれる。どのような船だったのか、早く知りたくなるが、そう簡単には教えてくれない。本書はただの発見物語ではないのだ。

まずは元寇という事件の歴史的概要と、これまでの調査方法が示す課題を浮き彫りにしていく。そして、その後の展開はまるでドキュメンタリー映画を見ているようである。最先端の探査機器を駆使しつつも、機械に溺れる事なく試行錯誤を繰り返し、苦労を重ねて的確な水中調査手法を見つけ出していく。時には研究チームで激しい議論も展開されたようで、その臨場感が伝わってくる。そして、ついに元軍船の姿が明らかとなるのである。著者は言う、「元軍船の発見よりも、そこに至るまでの過程が重要である」と。

本書は、一般読者はもとより、これから水中考古学を実践する考古学者にとっても調査方法を検討する手引きとなる1冊である。そして、長崎県松浦市鷹島歴史民俗資料館には、これまでの出土品等が展示されており、元寇関係遺物を見ることができる。本書を読み終わった後、読者は海を越えて行きたくなるだろう、「いざ、鷹島へ」と。

[書き手] 片桐 千亜紀(かたぎり ちあき)沖縄県立埋蔵文化財センター専門員。
海底に眠る蒙古襲来: 水中考古学の挑戦 / 池田 榮史
海底に眠る蒙古襲来: 水中考古学の挑戦
  • 著者:池田 榮史
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:2018-11-16
  • ISBN-10:4642058788
  • ISBN-13:978-4642058780
内容紹介:
元寇船が発見された長崎県の鷹島海底遺跡。遺物探査や実測作業などはいかに行われたか。試行錯誤で進められた調査過程を紹介する。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

沖縄タイムス

沖縄タイムス 2019年1月26日

関連記事
吉川弘文館の書評/解説/選評
ページトップへ