書評
『ぼくの宝ばこ』(講談社)
好きなものはアイデンティティーそのもの
この著者のエッセー集が刊行されるたび、ゆっくり読みふける。記憶をとても大切にし、そして、育てているからだ。時にしんどい日々を静かに更新するため、自分と懸命に寄り添う。「『おかま』として、ピエロとして振る舞う日々」を思い出す。「ただしい男の子たちの真っ当さが、より胸に刺さるようになっていった」。雑誌のふろくを、セーラームーンのシールを、レイアースの海ちゃんの人形をそばに置く。「ぼくの好きなものは、ぼくのアイデンティティーそのもの」なのだ。
かわいいもの、うつくしいものと一緒にいる。存在まるごと、ないがしろにされる出来事が続いても、その宝ものは裏切らない。「神さまでさえ立ち入れない聖域を、こころにたくさん持っているなんて、ぼくもなかなか勇敢じゃないか」
熟成された記憶に、ものと感情が混ざり合う。大切なものを大切と言い切れる優しさって、こんなに、たくましくもあるのだ。
朝日新聞 2020年7月18日
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