書評

『日本習合論』(ミシマ社)

  • 2021/03/06
日本習合論 / 内田樹
日本習合論
  • 著者:内田樹
  • 出版社:ミシマ社
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2020-09-19
  • ISBN-10:4909394400
  • ISBN-13:978-4909394408
内容紹介:
外来のものと土着のものが共生するとき、もっとも日本人の創造性が発揮される。 どうして神仏習合という雑種文化は消えたのか?組織、民主主義、宗教、働き方…その問題点と可能性を「習… もっと読む
外来のものと土着のものが共生するとき、
もっとも日本人の創造性が発揮される。

どうして神仏習合という
雑種文化は消えたのか?
組織、民主主義、宗教、働き方…
その問題点と可能性を「習合」的に看破した、
傑作書き下ろし。

壮大な知の扉を、
さあ開こう。


「話を簡単にするのを止めましょう」。それがこの本を通じて僕が提言したいことです。もちろん、そんなことを言う人はあまり(ぜんぜん)いません。これはすごく「変な話」です。だから、多くの人は「そんな変な話は聴いたことがない」と思うはずです。でも、それでドアを閉じるのではなく、「話は複雑にするほうが知性の開発に資するところが多い」という僕の命題については、とりあえず真偽の判定をペンディングしていただけないでしょうか。だって、別に今すぐ正否の結論を出してくれと言っているわけじゃないんですから。「というような変なことを言っている人がいる」という情報だけを頭の中のデスクトップに転がしておいていただければいいんです。それ自体すでに「話を複雑にする」ことのみごとな実践となるのですから。――あとがきより

異物の排除が進む恐怖

内田樹氏の書くものはひと筋縄でない。合気道の達人で、エマニュエル・レヴィナスの研究者。油断すると一本取られてしまう。

今回テーマは神仏習合だ。《話があちこちへ散らばっ》た(あとがき)とあるが、むろんわざと。軸足がちっともぶれていない。

ソマリアで人道支援をする青年がはるばる訪ねて来た。「人間関係というのは共感をベースにしないと成立しないものでしょうか?」。訊ねる声がいい、笑顔がいい、握手がいい。海賊や殺人犯を更生させる修羅場も務まるだろう。《おぬし、できるな》と二秒で見抜く。本書はこんな武道の技の連続である。

さて、明治の神仏分離令で、神道と仏教が別々にされた。神社の社僧らは《還俗(げんぞく)帰農するか、神官に職業替えするか二者択一》を迫られた。千年以上の伝統が一夜で消えた。なぜ誰も反対しない? 内田氏はこの謎を追って行く。

そもそも日本は雑種文化なのだった。両立するはずがないものを受容する。やがて化学反応が起こり、異質なものも共存できるようになる。かけ離れた他者の間に共通項がみつかる。それを繰り返してきた。内田氏はここに、わが国独自の創造力の源をみる。

白人至上主義や排外主義はなぜだめか。俺たちの不幸はあいつらのせい。ナチスはユダヤ人を排除し抹殺した。でも戦況は好転しない。チャーチルもスターリンもユダヤ人の手先なのかも。戦況がなお悪化した。軍中枢にユダヤ人が隠れているに違いない。異質な他者を排除すれば問題は解決する、はありがちな妄想なのだ。
 
共感できる同質な人びとと社会をつくろう、も危険である。レヴィナスの《重要なテーゼ…は「他者との関係は…共感の上に基礎づけるべきではない」》だ。人間は互いに理解も共感もしにくい。だから最低限のルールだけ守ろう。多様な人間が自分らしく行動し、結果が調和すればよい。そんなやり方を「習合的」という。

この観点から、日本社会の現状を丹念にチェックしていく。若者の行き過ぎた共感文化。農業と市場のミスマッチ。日本的雇用慣行の崩れ。ひきこもりも実は仕事ができること。日本的民主主義の可能性。多様なテーマが「習合的」に論じられている。

内田氏が《この本を書いた動機…は、「恐怖心」》だという。異物を排除し話を簡単にしたがる人びとが、年々増えている恐怖心。民主主義の危機につながる。

独裁は効率がいい。民主主義は議論に時間がかかる。独裁者は異質な他者を排除し、つぎつぎ最適な決定を下す。人びとは服従しそれなりに幸福だ。だが民主主義は危機に強い。自分は意思決定に加わった、危機は自分の責任だ、と思う人びとが起ち上がる。独裁では、危機は誰かのせい、独裁者のせいだ。誰も起ち上がらず体制が倒れるに任せる。大勢に順応する事大主義の日本は、民主主義から遠ざかっていないだろうか。

「習合」の反対は「純化」。何でも単純にし、異質な要素を排除して効率的にする。対する内田氏は少数派。数十年先の読者に言葉を届ける。わかりやすい。《「すごく頭のいい人」は…「頭が大きい」》という。どんな要素も取り込めるからだ。本書は「頭が大きい」内田氏の頭の中身を体感できる本。「純化」好みの多数派の人びとには手に負えない本だ。
日本習合論 / 内田樹
日本習合論
  • 著者:内田樹
  • 出版社:ミシマ社
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2020-09-19
  • ISBN-10:4909394400
  • ISBN-13:978-4909394408
内容紹介:
外来のものと土着のものが共生するとき、もっとも日本人の創造性が発揮される。 どうして神仏習合という雑種文化は消えたのか?組織、民主主義、宗教、働き方…その問題点と可能性を「習… もっと読む
外来のものと土着のものが共生するとき、
もっとも日本人の創造性が発揮される。

どうして神仏習合という
雑種文化は消えたのか?
組織、民主主義、宗教、働き方…
その問題点と可能性を「習合」的に看破した、
傑作書き下ろし。

壮大な知の扉を、
さあ開こう。


「話を簡単にするのを止めましょう」。それがこの本を通じて僕が提言したいことです。もちろん、そんなことを言う人はあまり(ぜんぜん)いません。これはすごく「変な話」です。だから、多くの人は「そんな変な話は聴いたことがない」と思うはずです。でも、それでドアを閉じるのではなく、「話は複雑にするほうが知性の開発に資するところが多い」という僕の命題については、とりあえず真偽の判定をペンディングしていただけないでしょうか。だって、別に今すぐ正否の結論を出してくれと言っているわけじゃないんですから。「というような変なことを言っている人がいる」という情報だけを頭の中のデスクトップに転がしておいていただければいいんです。それ自体すでに「話を複雑にする」ことのみごとな実践となるのですから。――あとがきより

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毎日新聞 2020年11月21日

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