書評
『遣外使節日記纂輯 1』(東京大学出版会)
可笑しくて、やがて元気に!
今回は、少し古い本だが、まだアマゾン等で手に入らぬこともない歴史的史料集を取上げてみる。掲出の本は、幕末に日本から外国に使いした人たちが書き残した日記の集大成である。
たとえば、その第一巻所収の『航海日記』は、万延元年アメリカの軍艦ポーハタン号に乗って渡米した幕府の正使新見正興の従者柳川當清の日記であるが、この人はよほど好奇心旺盛にして筆まめな人だったとみえて、その記述は微に入り細を穿って実に実に面白い。たとえば、サンフランシスコに到着して饗応せられた正餐の有様などまさに興味津々。最初に喫した「吸物のごときもの」即ちコンソメスープには、鳥の油が浮き「シラス干」のような魚が入っていて「塩け更になし」とある。塩辛い日本の汁に馴れた口には、コンソメはさぞ味がないと感じられたことだろう。それから「鶏の丸煮・南アフリカの米・牛肉の塩漬け・ぼたん菜のひたし物・白き豆の煮たる」など次々と出て、「カステーラに砂糖味噌のよふなるものをつけ」たものが出た。これはチョコレートケーキであろうか。そして「茶のかわりにカウヒンと云ものを出す。其味ちは至て苦かくして砂糖を入れざれば呑事能はず」とある。これらはいかに大御馳走でも不味くて「食する事あたわず」というのだけれど、しかし「空腹に堪へかねし故何れも是らを少し食する也」とある。正直!
これらを通読すると、我らが祖先たちがいかに柔軟な精神と健全な好奇心と、そして物事を正当に判断する叡知を持っていたかということを知って、つくづく幕末の青年たちは偉かったなあと、非常に元気が出てくるから是非一読されるとよい。
初出メディア

スミセイベストブック 2007年11月号
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