書評

『柳宗悦 手としての人間』(平凡社)

  • 2021/12/26
柳宗悦 手としての人間 / 伊藤 徹
柳宗悦 手としての人間
  • 著者:伊藤 徹
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(277ページ)
  • 発売日:2003-06-01
  • ISBN-10:4582842216
  • ISBN-13:978-4582842210
内容紹介:
人はなぜ作るのか。大量生産、複製技術の時代にあって、人は作ることによって何を求め、何を経験しようとしているのだろうか。本書は、民芸運動の指導者として神話化されてきた柳宗悦の言説を… もっと読む
人はなぜ作るのか。大量生産、複製技術の時代にあって、人は作ることによって何を求め、何を経験しようとしているのだろうか。本書は、民芸運動の指導者として神話化されてきた柳宗悦の言説を歴史的に検証しながら、「手としての人間」像に収斂した彼の創作理念の現代における思想的可能性を探り出そうとする。「手としての人間」の反復的な受動性において、「原像」を越えて立ち現われるかたちの生成、そこに蘇生する素材の自然や固有な場所と歴史、さらに制作の共同性。そうした人間存在の根本的な可能性への開けとして、著者は柳宗悦の創作思想を解体=再構成し、すべての制作が目的と手段の無限連鎖の中に絡めとられてしまった現代における作ること固有の意味の救済を試みる。
このハイデッガー研究者は、ある時期より、<かたち>の生成をめぐって、カンディンスキーの抽象絵画と柳宗悦の民芸運動に傾倒しだした。その長い潜航の軌跡がこの柳論だ。

「有用性の蝕(しょく)」という言葉で、高度技術社会に向けて重い問いを差しだす。人間の生にとって有用なものを産みだすはずの「作る」ことが、生(命)そのものをも製作可能なものとして呑(の)み込んでゆくなかで、制御不能な空洞と化したのが技術の現在ではないのかと。そしてその蝕のきざしのなかで、手段ではない「作る」ことの別の仕方に触れようとして果たしえなかった人として、柳を見る。

同じ河床の上にいた白樺派やプロレタリア芸術運動などとの捻(ねじ)れた関係をたどるなかで、その柳をも超えて、「待つ」ことの消失、物の確かさに身を委ね渡すことの忘却として、「作る」ことの現在を描く。「作る」の原点にわたしたちの視線をぐいと引き戻す、哲学者らしい骨太の著作だ。
柳宗悦 手としての人間 / 伊藤 徹
柳宗悦 手としての人間
  • 著者:伊藤 徹
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(277ページ)
  • 発売日:2003-06-01
  • ISBN-10:4582842216
  • ISBN-13:978-4582842210
内容紹介:
人はなぜ作るのか。大量生産、複製技術の時代にあって、人は作ることによって何を求め、何を経験しようとしているのだろうか。本書は、民芸運動の指導者として神話化されてきた柳宗悦の言説を… もっと読む
人はなぜ作るのか。大量生産、複製技術の時代にあって、人は作ることによって何を求め、何を経験しようとしているのだろうか。本書は、民芸運動の指導者として神話化されてきた柳宗悦の言説を歴史的に検証しながら、「手としての人間」像に収斂した彼の創作理念の現代における思想的可能性を探り出そうとする。「手としての人間」の反復的な受動性において、「原像」を越えて立ち現われるかたちの生成、そこに蘇生する素材の自然や固有な場所と歴史、さらに制作の共同性。そうした人間存在の根本的な可能性への開けとして、著者は柳宗悦の創作思想を解体=再構成し、すべての制作が目的と手段の無限連鎖の中に絡めとられてしまった現代における作ること固有の意味の救済を試みる。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2003年8月31日

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