書評
『柳宗悦 手としての人間』(平凡社)
このハイデッガー研究者は、ある時期より、<かたち>の生成をめぐって、カンディンスキーの抽象絵画と柳宗悦の民芸運動に傾倒しだした。その長い潜航の軌跡がこの柳論だ。
「有用性の蝕(しょく)」という言葉で、高度技術社会に向けて重い問いを差しだす。人間の生にとって有用なものを産みだすはずの「作る」ことが、生(命)そのものをも製作可能なものとして呑(の)み込んでゆくなかで、制御不能な空洞と化したのが技術の現在ではないのかと。そしてその蝕のきざしのなかで、手段ではない「作る」ことの別の仕方に触れようとして果たしえなかった人として、柳を見る。
同じ河床の上にいた白樺派やプロレタリア芸術運動などとの捻(ねじ)れた関係をたどるなかで、その柳をも超えて、「待つ」ことの消失、物の確かさに身を委ね渡すことの忘却として、「作る」ことの現在を描く。「作る」の原点にわたしたちの視線をぐいと引き戻す、哲学者らしい骨太の著作だ。
「有用性の蝕(しょく)」という言葉で、高度技術社会に向けて重い問いを差しだす。人間の生にとって有用なものを産みだすはずの「作る」ことが、生(命)そのものをも製作可能なものとして呑(の)み込んでゆくなかで、制御不能な空洞と化したのが技術の現在ではないのかと。そしてその蝕のきざしのなかで、手段ではない「作る」ことの別の仕方に触れようとして果たしえなかった人として、柳を見る。
同じ河床の上にいた白樺派やプロレタリア芸術運動などとの捻(ねじ)れた関係をたどるなかで、その柳をも超えて、「待つ」ことの消失、物の確かさに身を委ね渡すことの忘却として、「作る」ことの現在を描く。「作る」の原点にわたしたちの視線をぐいと引き戻す、哲学者らしい骨太の著作だ。
朝日新聞 2003年8月31日
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