書評

『航路』(早川書房)

  • 2017/07/20
航路 / コニー・ウィリス
航路
  • 著者:コニー・ウィリス
  • 翻訳:大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(656ページ)
  • 発売日:2013-08-27
  • ISBN-10:4150119147
  • ISBN-13:978-4150119140
内容紹介:
マーシー総合病院で、臨死体験者の聞き取り調査を行なっていた認知心理学者のジョアンナは、神経内科医のリチャードから新規プロジェクトへの協力を求められる。NDE(臨死体験)を人為的に発生さ… もっと読む
マーシー総合病院で、臨死体験者の聞き取り調査を行なっていた認知心理学者のジョアンナは、神経内科医のリチャードから新規プロジェクトへの協力を求められる。NDE(臨死体験)を人為的に発生させ、その時の脳の活動を詳細に記録しようというのだ。しかしその実験にはトラブルが続出し、被験者が不足してしまう。ジョアンナはみずからが被験者となることを申し出るが、彼女が擬似臨死体験でたどり着いた場所は……!?

臨死体験の真実

きのう紹介した長谷敏司『あなたのための物語』と同じく、“死”をテーマにした現代SFと言えば、コニー・ウィリス『航路』上下(ハヤカワ文庫SF)は外せない。自分の訳した本ですみませんが、これは、『ドゥームズデイ・ブック』はじめ、歴史観察系のタイムトラベルSFシリーズで知られるウィリスが、現代の病院を舞台に、持ち前の天才的なストーリーテリング術を駆使したメディカル・エンターテインメント巨編。

ドゥームズデイ・ブック   / コニー・ウィリス
ドゥームズデイ・ブック
  • 著者:コニー・ウィリス
  • 翻訳:大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(544ページ)
  • 発売日:2003-03-15
  • ISBN-10:4150114374
  • ISBN-13:978-4150114374
内容紹介:
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の女子学生キヴリン… もっと読む
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。オックスフォード大学史学部の女子学生キヴリンは、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


舞台はコロラド州デンヴァーの総合病院。臨死体験を研究中の認知心理学者ジョアンナは、この病院にオフィスをかまえ、心停止の連絡があるたびに患者のもとに駆けつけ、蘇生後の回復を待って話を聞き、データを集めている。暗いトンネルを抜けるとまばゆい光が見え、死んだ親族が出迎える--というのが典型的な臨死体験だが、なぜ彼らは同じようなイメージを見るのか?

一方、臨死体験は死に直面した脳の生存戦略だと考える若い神経内科医リチャードは、新開発の薬物ジテタミンが臨死体験そっくりの幻覚を誘発することを発見。この薬を使って、脳内で起きる生化学的な変化を画像として記録する実験を立案した彼は、共同研究者としてジョアンナに声をかける。

だが、いざ実験をはじめてみると、あらかじめ集めておいた志願者が次々に不適格だと判明、とうとうジョアンナが被験者を買って出ることに。ジテタミンを投与された彼女は、擬似臨死体験でいつも同じ場所へと赴く。行ったことはないけれど、たしかに知っている場所……。いったいここはどこなのか?

問題の“場所”がついに判明するところで第1部が終了。第2部で臨死体験の真の意味が解明されるが、その直後、驚愕(きょうがく)の展開が……。

この本筋に、臨死体験はあの世が実在する証拠だと主張するトンデモ系のベストセラー作家や、世界の災害を扱った本を集めて病室で読みふける心臓病の少女メイジーとか、魅力的な脇役たちがからみ、読者を飽きさせない。訳者の手前ミソながら、SFファン以外にも読んでほしい、胸を打つ傑作です。
航路 / コニー・ウィリス
航路
  • 著者:コニー・ウィリス
  • 翻訳:大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(656ページ)
  • 発売日:2013-08-27
  • ISBN-10:4150119147
  • ISBN-13:978-4150119140
内容紹介:
マーシー総合病院で、臨死体験者の聞き取り調査を行なっていた認知心理学者のジョアンナは、神経内科医のリチャードから新規プロジェクトへの協力を求められる。NDE(臨死体験)を人為的に発生さ… もっと読む
マーシー総合病院で、臨死体験者の聞き取り調査を行なっていた認知心理学者のジョアンナは、神経内科医のリチャードから新規プロジェクトへの協力を求められる。NDE(臨死体験)を人為的に発生させ、その時の脳の活動を詳細に記録しようというのだ。しかしその実験にはトラブルが続出し、被験者が不足してしまう。ジョアンナはみずからが被験者となることを申し出るが、彼女が擬似臨死体験でたどり着いた場所は……!?

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年7月10日

西日本新聞は、九州No.1の発行部数を誇るブロック紙です。
九州・福岡の社会、政治、経済などのニュース、福岡ソフトバンクホークスなどのスポーツ情報を提供します。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
大森 望の書評/解説/選評
ページトップへ