書評

『あなたのための物語』(早川書房)

  • 2017/07/19
あなたのための物語  / 長谷 敏司
あなたのための物語
  • 著者:長谷 敏司
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(429ページ)
  • 発売日:2011-06-10
  • ISBN-10:415031036X
  • ISBN-13:978-4150310363
内容紹介:
西暦2083年。人工神経制御言語・ITPの開発者サマンサは、ITPテキストで記述される仮想人格"wanna be"に小説の執筆をさせることによって、使用者が創造性を兼ね備えるという証明を試みていた。そんな矢先、サマンサの余命が半年であることが判明。彼女は残された日々を、ITP商品化の障壁である"感覚の平板化"の解決に捧げようとする。いっぽう"wanna be"は徐々に、彼女のための物語を語りはじめるが…。

人工知能の教育

この5月に日本公開されたニール・ブロムカンプ監督の最新作「チャッピー」は、ロボットの教育がテーマ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2015年)。生まれたてのAIを搭載した中古ロボットを強奪したギャングのカップルが、なんとか彼を一人前のギャングに育てようと奮闘するくだりは最高におかしい。もっともこれは、まんざらただの笑い話でもない。AIだってちゃんと育てるには時間がかかる――という可能性は、テッド・チャンの中編「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」でもリアルに描かれる。また、長谷敏司『あなたのための物語』(ハヤカワ文庫JA)では、AI(のような擬似人格)に小説を書かせるため、主人公が教育と訓練に明け暮れる。

時は2083年。サマンサ・ウォーカーは、21歳のときに人工神経の制御言語を開発して、ニューロロジカル社を創業。同社はその後、世界的な大企業に成長したが、莫大(ばくだい)な財産と名声を手に入れた今も、サマンサはシアトルの研究所で開発の第一線に立つ。現在の研究テーマは、脳内に疑似的な神経配置をつくりだすシステム、ITP。この技術が実現すれば、言葉を介さずに、知識や経験を直接伝達することが可能になる。チームは、ITPの創造性を実証するため、ITPで記述した疑似人格《wanna be( なりたい )》を量子コンピュータ上に走らせ、小説を書かせる実験を行っていた。与えられる小説を次々に読破し、模倣から出発して、たどたどしく小説を書きはじめる《彼》。だが、プロジェクトの中心にいるサマンサは、不治の免疫疾患にかかっていることが判明、余命半年と宣告される……。

小説は、サマンサが35歳の誕生日を前に死ぬ場面で始まり、彼女の生涯の最後の数カ月を語りはじめる。SF作家・伊藤計劃が34歳の若さで世を去った5カ月後に出たこともあり、初読のときは、作中のサマンサが、死の間際まで小説を書きつづけた彼の姿に重なって見えてしかたがなかったのをよく覚えている。いずれにせよ、ここまで真剣に“死”と向き合ったSFも珍しい。ずっしり重いが、その重さに見合う価値のある1冊。
あなたのための物語  / 長谷 敏司
あなたのための物語
  • 著者:長谷 敏司
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(429ページ)
  • 発売日:2011-06-10
  • ISBN-10:415031036X
  • ISBN-13:978-4150310363
内容紹介:
西暦2083年。人工神経制御言語・ITPの開発者サマンサは、ITPテキストで記述される仮想人格"wanna be"に小説の執筆をさせることによって、使用者が創造性を兼ね備えるという証明を試みていた。そんな矢先、サマンサの余命が半年であることが判明。彼女は残された日々を、ITP商品化の障壁である"感覚の平板化"の解決に捧げようとする。いっぽう"wanna be"は徐々に、彼女のための物語を語りはじめるが…。

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初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年7月9日

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