前書き
『折れない言葉』(毎日新聞出版)
90歳を迎えた作家・五木寛之さんを支えてきた数々の「名言」を一冊にまとめました。五木さんは、心が折れそうになった時、何もかも投げ出したくなったとき、役に立った言葉は、世の中にあふれかえる月並みな格言、ことわざが多かったといいます。身近な言葉を作家がどう解釈し、どのように糧にしてきたのか、読みどころのひとつです。本書のまえがきを紹介します。
それまで幸せに暮していた人も、思いがけない不運や、個人的な災難に見舞われることがある。逆境を生き続けてきた人が、やがて幸せになれるとも限らない。
世の中は残酷で、ときに呆れるほどの矛盾にみちている。私は若いころからずっと、そう感じてきた。
心が折れそうになった時もある。世の中と自分に愛想がつきて、何もかも投げだしたくなった時もあった。
そんな時、偉大な古典や、思想、哲学、その力が支えになってくれた事があっただろうか。ふり返って、そんな記憶が見当らないことに驚く。むしろ、危機的状況のなかで、たしかに役立ったもの、自分を支えてくれたものは、世の中にあふれ返っている月並みな格言、名言、ことわざ、などであったことを痛感するのだ。
そして千年をへた古い言葉とともに、いまこの時代を生きている同時代人の率直な感想に心を打たれる事が少なくなかった。
そんなとき、ありふれた言葉が、生き返ってこちらに語りかけてくる。そうか、同じような立場で悩み苦しんでいる先輩たちがいたんだな、と、少し心が軽くなる感じがある。
この一冊の本のなかには、私が実際に日々を生きているなかで、大きな支えとなった言葉を自由に選んで感想をのべてみた。
古代中国の思想家もいる。当代の人気アスリートのインタヴューでの感想もある。外国人の言葉もあり、日常的なことわざのたぐいもある。
どの言葉も、私の実生活のなかで実際に役立ったものばかりだ。悩み多き人生の道連れとして手垢がつくほど役立ててほしいと考えている。
言葉には言霊がある。これらの言葉にも不思議な力があると信じて、すり切れるまで愛用して欲しいと願わずにはいられない。
[書き手]五木寛之
自分を支えてくれたもの
生きていくことは大変である。若い頃もそう思っていたが、歳を重ねるごとにその思いは薄らいでいくどころか、かえって背中に重くのしかかってくるようになった。それまで幸せに暮していた人も、思いがけない不運や、個人的な災難に見舞われることがある。逆境を生き続けてきた人が、やがて幸せになれるとも限らない。
世の中は残酷で、ときに呆れるほどの矛盾にみちている。私は若いころからずっと、そう感じてきた。
心が折れそうになった時もある。世の中と自分に愛想がつきて、何もかも投げだしたくなった時もあった。
そんな時、偉大な古典や、思想、哲学、その力が支えになってくれた事があっただろうか。ふり返って、そんな記憶が見当らないことに驚く。むしろ、危機的状況のなかで、たしかに役立ったもの、自分を支えてくれたものは、世の中にあふれ返っている月並みな格言、名言、ことわざ、などであったことを痛感するのだ。
言葉の不思議な力
励ましの言葉は、短いほどいい。心と体に効くのは、ありふれた古くからの月並みなひと言である。そして千年をへた古い言葉とともに、いまこの時代を生きている同時代人の率直な感想に心を打たれる事が少なくなかった。
そんなとき、ありふれた言葉が、生き返ってこちらに語りかけてくる。そうか、同じような立場で悩み苦しんでいる先輩たちがいたんだな、と、少し心が軽くなる感じがある。
この一冊の本のなかには、私が実際に日々を生きているなかで、大きな支えとなった言葉を自由に選んで感想をのべてみた。
古代中国の思想家もいる。当代の人気アスリートのインタヴューでの感想もある。外国人の言葉もあり、日常的なことわざのたぐいもある。
どの言葉も、私の実生活のなかで実際に役立ったものばかりだ。悩み多き人生の道連れとして手垢がつくほど役立ててほしいと考えている。
言葉には言霊がある。これらの言葉にも不思議な力があると信じて、すり切れるまで愛用して欲しいと願わずにはいられない。
[書き手]五木寛之
ALL REVIEWSをフォローする

































