後書き
『古代ワインの謎を追う:ワインの起源と幻の味をめぐるサイエンス・ツアー』(原書房)
「あの味が忘れられない」そんな強烈な体験を旅先でしたことがある人も多いだろう。この本の著者もその一人。出張先の中東のホテルで偶然出会ったワインの味が忘れられず、その「クレミザンワイン」という専門家さえ知らないワインを調べてみれば調べてみるほど深みにはまり、とうとう古代ワインとのつながりを発見。さらには世界中をめぐって、ワインの起源と古代ワインの謎まで追うことに。古代の王たちが飲んでいたワインの味は? 絶滅したブドウ種は復活できるのか? 旅先で待ち受ける、キャラの濃いワイン科学者や醸造家たちが旅に彩を添える。そして10年にも及ぶ著者の探求の旅は、やがてワイン界に思わぬ新しい潮流をもたらすことに。
「ワイン×サイエンス」という一風変わったテーマで、著者と世界中のワイナリーとめぐる『古代ワインの謎を追う』の「訳者あとがき」を抜粋して公開する。
著者のケヴィン・ベゴス氏はAP通信、『タンバ・トリビューン』の特派員、MITナイト・サイエンス・ジャーナリズム・フェローなどを経て、フリーランスのライターとなった経歴の持ち主で、およそ10年の歳月をかけて、その「幻のワイン」の謎を解明しようとしました。中東、スイス、コーカサス地方、キプロス、ギリシア、フランス、イタリアを歴訪し、抜群の調査力と取材力を発揮しながら「いにしえの味」を追い求めたのです。
その間に、DNA鑑定によって世界のワインブドウの品種の系統図を完成させようとする科学者、古代ワインを復活させようとしている考古学者、昔ながらの製法を試みるワイン醸造家、ハイブリッド品種の育成に努めるブドウ生産者等々、いずれも強烈な個性の持ち主に次々と出会いました。こうして、最初の目標は特定のワインだったのに、いつのまにか興味の対象がどんどん広がっていったのです。
取材を続けるうちに「アメリカのブドウ品種の研究をしてみたら」と勧められ、幻のワインの謎が解けたあとは、腰を据えてアメリカのワイン業界の研究に傾倒するようになります。その過程で度肝を抜くような新しい試みを知り、ワイン科学の暗黒面にも向き合わざるをえなくなります。
そして、アメリカの土着品種を使って新たなワイン造りをめざす醸造家たちを訪ねるうちに、いつの日か「幻のワイン」を復活させようと夢見るように……。
人類がまだ石器を使っていた8000年前頃には造られていたという長い歴史を持つワイン。本書ではワイン発祥の地やワイン造りの伝播も取り上げています。章末には厳選されたワインリストも。その大半がインターネットショッピングで入手できるのもうれしい話ですね。
ワイン好きの方はもちろんのこと、ワインに詳しくなくても楽しんでいただけること請け合いです。「ワインは別の時代、別の文化、別の場所に連れていってくれるパスポート」という記述が出てきますが、まさにその言葉どおり、この本はワインをめぐる壮大な旅にあなたを誘ってくれることでしょう。
[書き手]矢沢聖子(訳者)
「ワイン×サイエンス」という一風変わったテーマで、著者と世界中のワイナリーとめぐる『古代ワインの謎を追う』の「訳者あとがき」を抜粋して公開する。
無名のワインが導く、いにしえの世界
出張先のホテルの部屋に備えつけられていたワインの味が忘れられなくなった。この本はそんな偶然から生まれました。著者のケヴィン・ベゴス氏はAP通信、『タンバ・トリビューン』の特派員、MITナイト・サイエンス・ジャーナリズム・フェローなどを経て、フリーランスのライターとなった経歴の持ち主で、およそ10年の歳月をかけて、その「幻のワイン」の謎を解明しようとしました。中東、スイス、コーカサス地方、キプロス、ギリシア、フランス、イタリアを歴訪し、抜群の調査力と取材力を発揮しながら「いにしえの味」を追い求めたのです。
その間に、DNA鑑定によって世界のワインブドウの品種の系統図を完成させようとする科学者、古代ワインを復活させようとしている考古学者、昔ながらの製法を試みるワイン醸造家、ハイブリッド品種の育成に努めるブドウ生産者等々、いずれも強烈な個性の持ち主に次々と出会いました。こうして、最初の目標は特定のワインだったのに、いつのまにか興味の対象がどんどん広がっていったのです。
取材を続けるうちに「アメリカのブドウ品種の研究をしてみたら」と勧められ、幻のワインの謎が解けたあとは、腰を据えてアメリカのワイン業界の研究に傾倒するようになります。その過程で度肝を抜くような新しい試みを知り、ワイン科学の暗黒面にも向き合わざるをえなくなります。
そして、アメリカの土着品種を使って新たなワイン造りをめざす醸造家たちを訪ねるうちに、いつの日か「幻のワイン」を復活させようと夢見るように……。
「ワイン×サイエンス」世界のワイナリーをめぐる旅へ
この本の魅力は、ワイン紀行としての面白さもさることながら、サイエンスライターでもある著者ならではの科学的でわかりやすい解説にあります。酵母の話や人間の味覚に関する説明に興味を惹かれる方も少なくないでしょう。人類がまだ石器を使っていた8000年前頃には造られていたという長い歴史を持つワイン。本書ではワイン発祥の地やワイン造りの伝播も取り上げています。章末には厳選されたワインリストも。その大半がインターネットショッピングで入手できるのもうれしい話ですね。
ワイン好きの方はもちろんのこと、ワインに詳しくなくても楽しんでいただけること請け合いです。「ワインは別の時代、別の文化、別の場所に連れていってくれるパスポート」という記述が出てきますが、まさにその言葉どおり、この本はワインをめぐる壮大な旅にあなたを誘ってくれることでしょう。
[書き手]矢沢聖子(訳者)
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