書評
『ギターと出会った日本人たち ~近代日本の西洋音楽受容史~』(ヤマハミュージックメディア)
草創期の隠れた業績を再構築
大衆楽器といわれるわりに、ギターはピアノやバイオリンに比べて、関連文献や研究書が極端に少ない。ギタリストの伝記もめったになく、自伝にいたっては若き日のセゴビアのもの、日本では小原安正のものくらいしか、思い浮かばない。本書は、そうした大きな空白を埋めるには、少々物足りないほどの小著だが、それでも著者の文献博捜ぶりには、しんから驚かされる。ギター普及に功があったとして、比留間賢八や武井守成、池上冨久一郎、中野二郎、大河原義衛らの名前が挙げられ、それぞれの作曲と演奏活動を含む経歴が、詳しく紹介されている。一般の音楽史には、まず出てこない人びとがほとんどで、ギターを多少かじった筆者のような人間にも、なじみのない名前がずらりと並ぶ。
著者は、そうした人びとの隠れた業績を、数少ない関係者へのインタビューや、散逸した雑誌記事などから、できるかぎり正確に再構築しようとする。その、たゆまざる渾身(こんしん)の努力は草創期、黎明(れいめい)期のギタリストたちの執念、辛苦と重なって、一読まことに感慨深いものがある。
資料的価値の高い労作、といえよう。
朝日新聞 2011年3月27日
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