書評

『争うアメリカ―人種・権利・税金』(みすず書房)

  • 2023/07/04
争うアメリカ―人種・権利・税金 / トマス・B.エドソール
争うアメリカ―人種・権利・税金
  • 著者:トマス・B.エドソール
  • 翻訳:飛田 茂雄
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:1995-04-01
  • ISBN-10:4622033704
  • ISBN-13:978-4622033707
内容紹介:
いま、アメリカに何が起きているのか。「ワシントン・ポスト」のベテラン記者が緻密に描いた。衝撃の全米ベストセラー、待望の刊行。

人種問題軸に描く

日々の報道の中にアメリカ社会の動きが報ぜられることは多い。しかし垣間見るアメリカについての断片的情報は、なかなか全体としてのアメリカ像の形成にまで結びつかない。といって書店のアメリカコーナーに立ち寄ってみても、テキストブック型のものや旅行記それに印象批評的なものばかりが目につく。意外にも歴史的な時間の流れを意識して、一つの確固たる視点を通してアメリカ社会を理解する手がかりが乏しいことに気がつくのだ。

本書は、一九六四年から四半世紀に及ぶアメリカ社会の変化を、人種問題を主軸に描き出したもの。ジャーナリストたる著者は、民主党・共和党の二大政党によって政治的に争点化された人種問題が、価値や権利や税金や福祉といった広範な問題群と、それこそ原題通り「連鎖反応」をおこしていく有り様を、流れるような筆致でしかし客観的に分析していく。

どうして共和党が「トップダウン型多数派」を形成でき、民主党は「ボトムアップ型少数派」に転落してしまったのか。大統領選や上下両院選挙における得票率の調査、世論調査をフルに活用しながら、有権者の意識の変化を追究する手ぎわの良さは見事だ。

その結果、六〇年代の公民権運動の成果が一方で黒人暴動に結びつくコントロール困難な社会状況をひきおこし、他方で結果の平等ではなく機会の平等を求める白人有権者の力を強めていくことになる。そして共和党の方が人種問題を積極的にとりこみ、アメリカ社会の分裂と保守的再編をおし進めたとする著者の見解には説得力がある。

だが共和党支持の中核となりつつある郊外住宅地に住む白人層と、完全に政治と切り離されつつある都市部の黒人層との絶望的なまでの社会格差に著者の指摘が及ぶ時、慄然(りつぜん)たる思いに苛(さいな)まれるのも事実だ。はたして凋落(ちょうらく)の一途をたどるリベラリズムと民主党とに、著者が期待するような起死回生の一打が可能であろうか。飛田茂雄訳。
争うアメリカ―人種・権利・税金 / トマス・B.エドソール
争うアメリカ―人種・権利・税金
  • 著者:トマス・B.エドソール
  • 翻訳:飛田 茂雄
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:1995-04-01
  • ISBN-10:4622033704
  • ISBN-13:978-4622033707
内容紹介:
いま、アメリカに何が起きているのか。「ワシントン・ポスト」のベテラン記者が緻密に描いた。衝撃の全米ベストセラー、待望の刊行。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

読売新聞

読売新聞 1995年5月1日

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
御厨 貴の書評/解説/選評
ページトップへ