書評

『大人の流儀』(講談社)

  • 2017/08/04
大人の流儀 / 伊集院 静
大人の流儀
  • 著者:伊集院 静
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(194ページ)
  • 発売日:2011-03-19
  • ISBN-10:4062169428
  • ISBN-13:978-4062169424
内容紹介:
大好きな人に手紙を書きたくなったとき。上司に意見をしなければならないとき。人を叱らなければならないとき。大切な人を失ってしまったとき。嫌でもケンカをしなければならないとき。とてつもない悲しみに包まれたとき。こんなとき、大人ならどう考え、どう振る舞うのだろう。

安いものには裏がある

伊集院静のエッセイ集『大人の流儀』に、特別なことは何も書かれていない。叱らなければならないときは叱れ、危険を察知したらただちに対処せよ、空気よりも流れを読め。「流儀」というよりも、「あたりまえ」のこと、「常識」である。読者も「ええっ? そうなの?」とは思わないはずだ。きっと「うんうん。そうそう」とうなずきながら読んでいる。でも、大人の流儀がなかなか通じなくなったから、この本が多くの人に読まれているのだろう。そういえば山口瞳の『礼儀作法入門』(新潮文庫)はロングセラーである。

〈世のお父さんの飲むビールまで節約じゃおかしい。大人の男が仕事の後にやる一杯をケチってはダメだ。それに何でも安いのがいいという発想も愚かだ。物には適正な値段、つまり価値がある。安いものは結果として物の価値をこわすことになる〉と著者は言う。激安焼き肉による食中毒死事件の後だけに、なんとも染み入る言葉である(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2011年)。物の価値どころか、お腹をこわし、生命まで奪われた。安けりゃいいというものではないし、安いものには裏がある、というのが大人の感覚だろう。

本書を読んで初めて知ったこともある。墓参は昼までにすませるようにと書かれている。午後になると時間の吉凶が悪くなるのだとか。私は坊主の孫なのに知らなかった。もしかして宗派によって考え方が違うのか?

私のような世代にとって、胸を打たれるのは「妻と死別した日のこと」および巻末の「愛する人との別れ」という章だろう。夏目雅子との出会い、闘病、死別について書かれた文章である。これまで伊集院静は夏目雅子について書いてこなかった。読みながら、化粧品のCMや映画、テレビドラマの映像がまぶたに浮かんできた。そういえば田中好子も最期のメッセージで彼女について触れていたっけ。

伊集院静の文章は淡々としていて大げさなところがなく、人を感傷的にさせる。
大人の流儀 / 伊集院 静
大人の流儀
  • 著者:伊集院 静
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(194ページ)
  • 発売日:2011-03-19
  • ISBN-10:4062169428
  • ISBN-13:978-4062169424
内容紹介:
大好きな人に手紙を書きたくなったとき。上司に意見をしなければならないとき。人を叱らなければならないとき。大切な人を失ってしまったとき。嫌でもケンカをしなければならないとき。とてつもない悲しみに包まれたとき。こんなとき、大人ならどう考え、どう振る舞うのだろう。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2011年5月27日

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