『葉桜の季節に君を想(おも)うということ』が昨年の各種ベストミステリーに選出された歌野晶午(しょうご)の新作。
ヒロイン・ジェシカはエチオピア出身のマラソン選手で、日本人監督・金沢勉のもとで練習に励んでいる。
ジェシカはある夜、同僚の女子選手・原田歩(あゆみ)が丑(うし)の刻参りで金沢を呪っているところを目撃するが、まもなく歩は自殺してしまう。
ところが、その後、歩はふたたび姿を現し、不可能な殺人が行われる……。
『葉桜~』は叙述トリックの一発芸。つまり『アクロイド殺し』のごとく、殺人法ではなく語りに最大の仕掛けがある。ここまでばらしてもなお、あのオチを見抜ける人はいないだろう。
『ジェシカ~』にもまったく同じことがいえる。
不可能犯罪の面白さ、女子スポーツの友情・努力・感動の物語は保証する。だが、このトリックは『葉桜』のような普遍性に欠ける。ラストは唖然(あぜん)呆然(ぼうぜん)、こんなのありかと読者は驚き、あるいは脱力するだろう。