書評

『語れ、内なる沖縄よ――わたしと家族の来た道』(みすず書房)

  • 2024/08/02
語れ、内なる沖縄よ――わたしと家族の来た道 / エリザベス・ミキ・ブリナ
語れ、内なる沖縄よ――わたしと家族の来た道
  • 著者:エリザベス・ミキ・ブリナ
  • 翻訳:石垣 賀子
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(360ページ)
  • 発売日:2024-02-20
  • ISBN-10:4622096684
  • ISBN-13:978-4622096689
内容紹介:
「わたしは一編の沖縄の物語。一編のアメリカの物語」(第26章より)1970年代はじめの嘉手納のナイトクラブ。戦後間もない沖縄で生まれ育った母と、ベトナム帰還兵だったイタリア系アメリカ人… もっと読む
「わたしは一編の沖縄の物語。一編のアメリカの物語」(第26章より)
1970年代はじめの嘉手納のナイトクラブ。戦後間もない沖縄で生まれ育った母と、ベトナム帰還兵だったイタリア系アメリカ人の父はそこで出会った。ふたりのあいだに生まれた著者は、ニューヨーク州北部の町の白人文化のなかで育つ。アジア系のマイノリティとしてアメリカ社会に生きる葛藤は、英語が不得手でまわりとちがう母への反発と軽視へと変わり、その背景にある沖縄の言葉や文化も遠ざけてきた。
しかし、仕事や恋愛でさまざまな経験を重ねるなかで、異国で母が抱えていた苦悩、言語の壁、沖縄・日本・アメリカのあいだの不均衡な力関係に気づき、母に対する見方は変化していく。さらに、両親と沖縄を訪れて親族と触れ合い、豊かで複雑な歴史を学ぶなかで、内なる沖縄への自覚は徐々に強まっていった。
自身の半生と沖縄の歴史を織り交ぜてつづり、多くの書評で高く評価された回想記。
1981年にシカゴで生まれた著者の自伝。母は沖縄の嘉手納に生まれ育ち、ベトナム帰還兵の父と結婚してアメリカに渡った。

母は何年暮らしてもアメリカの言葉や生活習慣になじめない。幼いころの著者はそれが不満で、母という存在を恥じてもいた。著者は外見がアジア人であるがゆえに差別やいじめにあったが、それも母を疎んじる理由だった。

しかし著者は34歳のとき(つまり、わりと最近になって)、母の歴史、沖縄/琉球の歴史について学び、考えるようになる。沖縄戦のこと、占領と日本への返還、駐留する米兵が起こした犯罪について。日本に組み入れられる前の歴史について。

そして気づく、母がどんな思いで父と結婚して沖縄を出たのか。祖父母やおじ・おばたちはどんな思いで送り出したのか。母を愛し、寛容である父と母のあいだにある偏った力関係について。その不均衡は日本とアメリカ、沖縄と日本の関係でもあることを。

巻末近くの、笑顔で抱き合う著者と母の写真に胸を打たれる。
語れ、内なる沖縄よ――わたしと家族の来た道 / エリザベス・ミキ・ブリナ
語れ、内なる沖縄よ――わたしと家族の来た道
  • 著者:エリザベス・ミキ・ブリナ
  • 翻訳:石垣 賀子
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(360ページ)
  • 発売日:2024-02-20
  • ISBN-10:4622096684
  • ISBN-13:978-4622096689
内容紹介:
「わたしは一編の沖縄の物語。一編のアメリカの物語」(第26章より)1970年代はじめの嘉手納のナイトクラブ。戦後間もない沖縄で生まれ育った母と、ベトナム帰還兵だったイタリア系アメリカ人… もっと読む
「わたしは一編の沖縄の物語。一編のアメリカの物語」(第26章より)
1970年代はじめの嘉手納のナイトクラブ。戦後間もない沖縄で生まれ育った母と、ベトナム帰還兵だったイタリア系アメリカ人の父はそこで出会った。ふたりのあいだに生まれた著者は、ニューヨーク州北部の町の白人文化のなかで育つ。アジア系のマイノリティとしてアメリカ社会に生きる葛藤は、英語が不得手でまわりとちがう母への反発と軽視へと変わり、その背景にある沖縄の言葉や文化も遠ざけてきた。
しかし、仕事や恋愛でさまざまな経験を重ねるなかで、異国で母が抱えていた苦悩、言語の壁、沖縄・日本・アメリカのあいだの不均衡な力関係に気づき、母に対する見方は変化していく。さらに、両親と沖縄を訪れて親族と触れ合い、豊かで複雑な歴史を学ぶなかで、内なる沖縄への自覚は徐々に強まっていった。
自身の半生と沖縄の歴史を織り交ぜてつづり、多くの書評で高く評価された回想記。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年6月15日

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