書評

『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)

  • 2024/07/19
実力も運のうち 能力主義は正義か? / マイケル・サンデル
実力も運のうち 能力主義は正義か?
  • 著者:マイケル・サンデル
  • 翻訳:鬼澤 忍
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(480ページ)
  • 発売日:2023-09-11
  • ISBN-10:4150506027
  • ISBN-13:978-4150506025
内容紹介:
あなたの成功は努力の賜物か、それとも運か?「親ガチャ」「自助」「学歴差別」……新たな階級社会と未曾有の分断、その根源を問う一冊努力して高い能力を身につけた者が、社会的成功とその報… もっと読む
あなたの成功は努力の賜物か、それとも運か?
「親ガチャ」「自助」「学歴差別」……新たな階級社会と未曾有の分断、その根源を問う一冊

努力して高い能力を身につけた者が、社会的成功とその報酬を手にする。こうした「能力主義(メリトクラシー)」は一見、平等に思える。だが、本当にそうだろうか? ハーバード大学の学生の3 分の2 は、所得分布で上位5 分の1 にあたる家庭の出身だ――。「やればできる」という言葉に覆い隠される深刻な格差を明るみに出し、現代社会の「正義」と「人間の尊厳」を根本から問う。NHK 教育テレビ(現E テレ)で放送された「ハーバード白熱教室」でも知られる人気講義を手がけるマイケル・サンデル教授の新たなる主著。
学歴社会、格差問題、さまざまな社会問題が山積する現代において、真に正義にかなう共同体は実現できるのか?
解説:本田由紀(東京大学大学院教育学研究科教授)
「白熱教室」の政治哲学者サンデル先生が、能力主義をぶったたく! マイケル・サンデル『実力も運のうち』(鬼澤忍訳・早川書房・2420円)はそういう本である。

身分とか家柄とか財産とかではなく、能力で人を評価するのが能力主義。それのどこがいけないの? しかし、サンデル先生によると、能力主義が現代のアメリカを分断している。高学歴のエリートとそうではない労働者階級とに。グローバリゼーションの勝ち組と負け組に。

びっくりしたのは、サンデル先生がオバマ前々大統領を激しく批判していること。もしかして、サンデル先生、トランプ支持者なの?と思ったらそうではない。

「やればできる」とオバマは繰り返し言った。オバマ自身やミシェル夫人は、恵まれない環境のなかで努力して高い学歴と職業を得た人。まさにアメリカン・ドリームだ。

だけど、成功した人に「やればできる」と言われると、できなかった人は、見下されたような気分になる。「社会的敬意の喪失」という言葉をサンデル先生は使う。そもそも、誰もが高学歴必須の職業に就きたいわけじゃない。しかも、機会平等は建前で、名門大学の入学者は富裕層の子弟が圧倒的に多い。

ヒラリー・クリントンがトランプに負けた理由はここだ。オバマやヒラリーに象徴される高学歴エリートへの怒りをトランプが代弁していると労働者階級は感じたのだ。トランプが選挙で負けても、あれほどひどい醜態をさらしても、いまだ支持者がいるのはそういうことなのだろう。

ピューリタンの救済観・労働観など、能力主義の背景には根深いものがある。でも、この分断を放置しておくと社会は壊れ、ますます住みにくくなってしまう。どうすればいいのか。エリートが謙虚になるだけじゃだめ。サンデル先生が掲げるのは「条件の平等」だ。誰もが出世できる可能性を持つ能力主義ではなく、出世に関係なく充実を感じて生きられるようにすること。なんだかジワッとくる結論ですね。
実力も運のうち 能力主義は正義か? / マイケル・サンデル
実力も運のうち 能力主義は正義か?
  • 著者:マイケル・サンデル
  • 翻訳:鬼澤 忍
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(480ページ)
  • 発売日:2023-09-11
  • ISBN-10:4150506027
  • ISBN-13:978-4150506025
内容紹介:
あなたの成功は努力の賜物か、それとも運か?「親ガチャ」「自助」「学歴差別」……新たな階級社会と未曾有の分断、その根源を問う一冊努力して高い能力を身につけた者が、社会的成功とその報… もっと読む
あなたの成功は努力の賜物か、それとも運か?
「親ガチャ」「自助」「学歴差別」……新たな階級社会と未曾有の分断、その根源を問う一冊

努力して高い能力を身につけた者が、社会的成功とその報酬を手にする。こうした「能力主義(メリトクラシー)」は一見、平等に思える。だが、本当にそうだろうか? ハーバード大学の学生の3 分の2 は、所得分布で上位5 分の1 にあたる家庭の出身だ――。「やればできる」という言葉に覆い隠される深刻な格差を明るみに出し、現代社会の「正義」と「人間の尊厳」を根本から問う。NHK 教育テレビ(現E テレ)で放送された「ハーバード白熱教室」でも知られる人気講義を手がけるマイケル・サンデル教授の新たなる主著。
学歴社会、格差問題、さまざまな社会問題が山積する現代において、真に正義にかなう共同体は実現できるのか?
解説:本田由紀(東京大学大学院教育学研究科教授)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2021年5月8日

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