書評

『人類史マップ サピエンス誕生・危機・拡散の全記録』(日経ナショナルジオグラフィック社)

  • 2024/08/15
人類史マップ サピエンス誕生・危機・拡散の全記録 / テルモ・ピエバニ,バレリー・ゼトゥン
人類史マップ サピエンス誕生・危機・拡散の全記録
  • 著者:テルモ・ピエバニ,バレリー・ゼトゥン
  • 翻訳:竹花秀春,篠原範子,エラリー・ジャンクリストフ
  • 監修:小野林太郎
  • 出版社:日経ナショナルジオグラフィック社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(208ページ)
  • 発売日:2021-01-21
  • ISBN-10:4863134819
  • ISBN-13:978-4863134812
内容紹介:
わかりやすい地図でたどる、壮大なヒトの歴史――入り組んだ系統樹の中で、私たちだけが生き残った。600万~700万年前にチンパンジーとの共通祖先から進化した人類は、多くの種に枝分かれし、… もっと読む
わかりやすい地図でたどる、壮大なヒトの歴史――
入り組んだ系統樹の中で、私たちだけが生き残った。

600万~700万年前にチンパンジーとの共通祖先から進化した人類は、多くの種に枝分かれし、アフリカから世界に拡散し、その多くが絶滅し、唯一、ホモ・サピエンスだけが生き残った。人類がどのように生まれ、危機の時代を過ごし、世界各地へ拡散していったのかを、様々な考古学的データをもとに再現した書。

大判の判型に、アフリカから世界各地に拡散していく地図、豊富な図解、写真を掲載し、見応えのある誌面を構成。化石データに加え、古代の気象図や海岸線図を参照しつつ、人類の歴史と大移動の経路をたどる。移動過程における定住や生態系への影響、複数の人類が共存した可能性なども探る。

また最新の皮膚形成術をもとに、化石骨格から各時代の人類の容姿を生き生きとした復元像で再現。生物学的な進化だけでなく、道具や言語、生活習慣などの進歩もたどることで、今日、世界各地で独自の文化を持って暮らす諸民族誕生の謎にも迫る。

【目次】
序文/まえがき/プロローグ
1章 人類の夜明けと最初の拡散
2章 旧世界のさまざまな人類の形態
3章 ホモ・サピエンスの第2の誕生
4章 新石器革命と世界への拡散
5章 遺伝子・民族・言語の多様性
付録 博物館と遺跡/用語集/参考文献

祖先が歩いた時間と空間

新型コロナウイルス感染症のパンデミックや気候変動問題により、現代社会の脆弱さが顕在化し、自然の操作と自然離れした生活をよしとする価値観への疑問が生まれている。そこで、人間と自然との関係を踏まえた歴史の考察が必要となる。

それは、人間の歴史でなく人類の歴史だ。近年この視点が生まれつつあるが、本書の特徴は、人類の動きを描いた世界地図、豊富な写真と図表によって、時間と空間を総合的に見られるところである。わかりやすいと同時に、さまざまな問いを引き出してくれる。

人類は、ホモ・サピエンスだけではない。700万~600万年前にチンパンジーの共通祖先と分かれた時点ですでに3系統ほどが知られている。その後、主として東アフリカで生まれた20種類以上の系統の中から200万年ほど前にホモ属が誕生し、その一つの枝として私たちの祖先ホモ・サピエンスが生まれたのである。現生人類は1種だが、常に複数の仲間がいた。進化とは、一本の線を進むものではなく、その中で私たちだけが生き残ったのはなぜかという問いへの簡単な答えはない。

出アフリカをしての拡散も、サピエンス以前のホモ属で2回も行われており、ヨーロッパ、コーカサスなど地域ごとに進化した。足跡の化石や石器などから彼らの生活が少しずつわかり始めている。

ホモ・サピエンスによる13万~10万年前、3度目の出アフリカが今につながる。重要なのはネアンデルタール人との出会いであり、交雑のあったことがわかってきた。その他、アルタイ山脈のデニソワ人、インドネシアのソロ人、フローレス原人も同時代を生きている。デニソワ人が現在のニューギニアの人とつながり、そこから島が分化の中心地となったという姿も見えてくる。火の利用、石器などの技術と墓や洞窟内の構造物、装飾品などが見られるようになり、人類の特徴が浮かび上がる。最近、7万~6万年前の南アフリカで生まれた尖頭器(せんとうき)文化など2度の文化革命が明らかになった。

「荒ぶる地球」というページでは、氷河期、噴火などの災害がくり返し起きる地球に人類の活動が重ね合わされる。現生人類のゲノム多様性が小さいのは、先史時代に絶滅の危機があったことを示す。

それを乗り越えた祖先の特徴は、4万2000年ほど前の象徴の理解、抽象思考のできる知性の開花(壁画、彫刻、埋葬など)という精神革命にある。DNA解析から、現生人類最後の拡散は言語をもち、見知らぬ土地に定住する能力をもつ仲間による。オーストラリア、アメリカ大陸へも拡散し、移住先で起こるのが今につながる農耕革命だ。各地での生態学的、地理的要因で生み出される多様性を示す各種の地図と写真から当時の人々の思いを想像し、もし私がここにいたらこの道を歩いただろうかと考えた。ここでの選択が現代につながるからだ。

最後の、遺伝子・民族・言語の章はまさに地図を楽しめる。人類の遺伝子も音素もアフリカから離れるほど多様性が縮小する。生物(動物・植物)多様性と文化(言語)の多様性に見られる相互関係から何が読み取れるかは難しいが、考えるべきことは多い。

多様の重要性を知りながら画一化の道を歩む私たちに多くを考えさせる人類史マップである。
人類史マップ サピエンス誕生・危機・拡散の全記録 / テルモ・ピエバニ,バレリー・ゼトゥン
人類史マップ サピエンス誕生・危機・拡散の全記録
  • 著者:テルモ・ピエバニ,バレリー・ゼトゥン
  • 翻訳:竹花秀春,篠原範子,エラリー・ジャンクリストフ
  • 監修:小野林太郎
  • 出版社:日経ナショナルジオグラフィック社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(208ページ)
  • 発売日:2021-01-21
  • ISBN-10:4863134819
  • ISBN-13:978-4863134812
内容紹介:
わかりやすい地図でたどる、壮大なヒトの歴史――入り組んだ系統樹の中で、私たちだけが生き残った。600万~700万年前にチンパンジーとの共通祖先から進化した人類は、多くの種に枝分かれし、… もっと読む
わかりやすい地図でたどる、壮大なヒトの歴史――
入り組んだ系統樹の中で、私たちだけが生き残った。

600万~700万年前にチンパンジーとの共通祖先から進化した人類は、多くの種に枝分かれし、アフリカから世界に拡散し、その多くが絶滅し、唯一、ホモ・サピエンスだけが生き残った。人類がどのように生まれ、危機の時代を過ごし、世界各地へ拡散していったのかを、様々な考古学的データをもとに再現した書。

大判の判型に、アフリカから世界各地に拡散していく地図、豊富な図解、写真を掲載し、見応えのある誌面を構成。化石データに加え、古代の気象図や海岸線図を参照しつつ、人類の歴史と大移動の経路をたどる。移動過程における定住や生態系への影響、複数の人類が共存した可能性なども探る。

また最新の皮膚形成術をもとに、化石骨格から各時代の人類の容姿を生き生きとした復元像で再現。生物学的な進化だけでなく、道具や言語、生活習慣などの進歩もたどることで、今日、世界各地で独自の文化を持って暮らす諸民族誕生の謎にも迫る。

【目次】
序文/まえがき/プロローグ
1章 人類の夜明けと最初の拡散
2章 旧世界のさまざまな人類の形態
3章 ホモ・サピエンスの第2の誕生
4章 新石器革命と世界への拡散
5章 遺伝子・民族・言語の多様性
付録 博物館と遺跡/用語集/参考文献

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2021年3月6日

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