書評
『ホットロード』(集英社)
恋愛ではなく母と娘の物語
紡木たくは、80年代にたくさんの作品を残し、その後、マンガ家としての活動から離れてしまった伝説のマンガ家である。彼女の代表作『ホットロード』は、当時10代だった今の40歳前後世代にとっては特別な作品として記憶されているはず。逆にそれ以外の世代、特に今どきの若い世代には紡木たくという名前すら知られていない。だが、原作から28年経って映画化された『ホットロード』は、10代20代に受けてヒットし、原作も再びベストセラーとなっている。
14歳の少女と暴走族の少年の恋物語だと思っていた。映画の宣伝文句も、現在40歳である筆者が10代の頃に読んだ本作の記憶もそう。だが、読み返してみてそれは作品の断片でしかないことに気づいた。
ヒロイン和希は14歳。父親とは2歳の時に死別し、母親に育てられた。物語の主眼は、恋愛よりもむしろこの和希と母の関係に置かれている。和希の母は、仕事と恋に追われる35歳の女である。娘には、素直に自分を見せようと友だちのように接する。だが娘は、自分より仕事や恋を優先する母親に疎外感を感じる。和希は家出し、暴走族の仲間と付き合うようになっていく。
家庭環境に恵まれない娘がぐれていくという古典的な不良少女ものではない。むしろ「女性活躍担当大臣」なんてポストができる現代の母親像を先取りしていたのだ。そう原作が描かれた1986年は、男女雇用機会均等法施行の年でもある。
ラストでは「人を思う気持ち」を通して和希と母親は互いに信頼関係を取り戻していく。恋愛ではなく母と娘の物語。
もう1度 あの頃の あの子たちに 逢(あ)いたい。
漫画の冒頭のモノローグだ。今もう一度この作品に逢うべきは、10代の子育てに挑むアラフォー世代だろう。
朝日新聞 2014年9月14日
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