書評

『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡』(河出書房新社)

  • 2017/08/11
エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡  / ディケンズ,ストーカー
エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡
  • 著者:ディケンズ,ストーカー
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(348ページ)
  • 発売日:2012-06-05
  • ISBN:4309463746
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

短篇小説の妙技も堪能できる十二篇の英国恐怖小説

大変な怖がりだったにもかかわらず、ドラキュラやフランケンシュタインやアマゾンの半魚人といった定番の恐怖映画を好んでみるあまり、夜驚症になってしまった幼少のみぎりのわたくし。こんな怖いもの知らずのオバァと化すとは、当時想像もしてなかったんですの。おほほ。

もちろん、怪談やモダンホラーのたぐいも大好きで、手に入るものならかたっぱしから読んでいたのですが、そんなホラー遍歴の末、最近では「やっぱり十九世紀末から二十世紀初頭にかけて生まれたゴシック風味の幽霊譚が一番!」という心境に達しておりますの。アーサー・マッケン、アルジャノン・ブラックウッド、M・R・ジェイムズといった、英国恐怖小説界三大スターを中心にした作家たちの作品のことだすわね。だすわよ。英米文学の名ナビゲーターとして知られる柴田元幸さんが、精力的にその画業を紹介してきた、エドワード・ゴーリーが編んだアンソロジー『憑かれた鏡』は、そういうかそけき恐怖を愛する読者のツボを心得た一冊なんですの。

好奇心の強い高齢の叔母と共に、幽霊が出る家に侵入する青年の体験を綴った「空家」(A・ブラックウッド)。信じがたい偶然を描いて薄気味の悪い余韻を残す「八月の炎暑」(W・F・ハーヴィ)。イギリスのわらべ歌を効果的に使った復讐譚「豪州からの客」(L・P・ハートリー)。三つの願い事が引き起こすおぞましい事態を描いて、あまりにも有名な一篇「猿の手」(W・W・ジェイコブズ)。呪いをかけられた男の意趣返しを描いて痛快な「古代文字の秘法」(M・R・ジェイムズ)。

といった十二篇の怪談が収録されているんですけど、わたしが一番恐ろしかったのは『吸血鬼ドラキュラ』の作者として知られるブラム・ストーカーの「判事の家」です。卒業試験が近づいたので、どこかに引きこもって勉強に専念しようと思いたった青年が、古い屋敷を借りることにするんですが、その邸のかつての持ち主というのが、冷酷な判決で悪名をとどろかしていた判事。霊の存在なんかまったく信じていない科学的思考の持ち主の青年は、周囲の心配をよそに、屋敷に居座り続け――。古典的な幽霊屋敷譚なんですが、垂れ下がるロープや鼠といったガジェットを効果的に使って、作者は一行話を進めるごとに読者を恐怖の側へと押しやるんです。で、最後には……ひえぇーっ。ホラーならではの愉しみだけでなく、短篇小説としての妙技も堪能できる。これまでクラシカルな英国恐怖小説に親しんでこなかった人に、特におすすめしたい逸品なんであります。 



【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN:4054038727
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡  / ディケンズ,ストーカー
エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡
  • 著者:ディケンズ,ストーカー
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(348ページ)
  • 発売日:2012-06-05
  • ISBN:4309463746

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2006年9月16日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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