書評
『夜の熱気の中で』(早川書房)
舞台は南部。カロライナのウェルズという町で白人男性の他殺死体が発見され、警官が駅の待合室にいた黒人を容疑者としてしょっぴく。ところが、この黒人は名をヴァージル・ティッブスというパサディナの刑事でしかも殺人捜査のプロであることが判明、人種偏見のつよい田舎町の警察捜査に協力する破目になる。映画が大ヒットしたことも手伝って社会派ミステリの佳作といったとらえ方をされたが、人種問題に関するアプローチは底が浅い。白人作家の描くティッブス刑事の個性が綺麗すぎて、そらぞらしいのだ。しかし、うだるように暑い南部の田舎町の雰囲気と小味ながらがっちりとできた謎解きは、現在読んでも充分におもしろい。
【この書評が収録されている書籍】
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