書評

『カフカとの対話―― 手記と追想』(みすず書房)

  • 2018/05/29
カフカとの対話―― 手記と追想 / グスタフ・ヤノーホ
カフカとの対話―― 手記と追想
  • 著者:グスタフ・ヤノーホ
  • 翻訳:吉田 仙太郎
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2012-11-02
  • ISBN-10:4622083590
  • ISBN-13:978-4622083597
内容紹介:
青年は「ドクトル・カフカ」と出会い、慕い、語り合った。人間カフカの思想・声・姿を瑞々しく伝える貴重な書物。

カフカ的「不条理」を鋭く問う

カフカは役人だった。プラハの労働災害保険局に、十四年間つとめた。長身、濃い眉毛、大きな灰色の眼、頑丈な手。声はバリトン。

その、生身のカフカに、著者ヤノーホは十七歳のとき会った。父親が保険局でカフカの同僚だったのだ。息子が詩を書いているのを知って、父親はカフカに助言を求めた。心やさしいカフカは、快く承諾したうえ、じかに会いましょうと言ってくれた。こうして、奇跡の書ともいうべき『カフカとの対話』が、第一歩を踏みだすことになる。

オーストリア・ハンガリア帝国に呑みこまれ、ナチズムのドイツに呑みこまれ、さらにはスターリンのソ連に呑みこまれたチェコスロヴァキア。こういう国の首都に、ユダヤ人として生を享けるとはどういうことか。およそ日本人には実感しづらい世界である。カフカの文学は、この特殊な土壌に育ち、灰色の花を開いた。彼の小説はすみずみまで「不条理」に満ちている。プラハではずっと、不条理は哲学的主題ではなく、日常そのものだった。著者ヤノーホ自身、第二次大戦直後、このカフカ的不条理に巻きこまれ、十三ヵ月ものあいだ獄中にあった。

人間に絶望しながら、生活者としては物静かな、やさしい、ほとんど大慈大悲の人として生き、死んでいったカフカ。その肉声を、こんなにじかな形で伝えてくれる本は、ほかにない。フィクションだ、でっちあげだという非難を浴びてきた本だそうだが、一般読者には、小うるさい詮議立ては二義的なことでしかない。「私のいいかげんな小説が、革表紙に値するわけはありません。あれは私のまったく個人的な悪夢です。そもそも印刷などすべきものではないのです。焼いてしまって抹殺すべきものなのです」――年少の友にむかって、カフカはそういったという。こんな言葉は、一度聴いたら絶対に忘れられない。カフカは不滅、と声に出して言いたくなるような本だ。=吉田仙太郎訳
カフカとの対話―― 手記と追想 / グスタフ・ヤノーホ
カフカとの対話―― 手記と追想
  • 著者:グスタフ・ヤノーホ
  • 翻訳:吉田 仙太郎
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2012-11-02
  • ISBN-10:4622083590
  • ISBN-13:978-4622083597
内容紹介:
青年は「ドクトル・カフカ」と出会い、慕い、語り合った。人間カフカの思想・声・姿を瑞々しく伝える貴重な書物。

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初出メディア

初出媒体など不明

初出媒体など不明 1994年ごろ

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