書評

『お笑い大蔵省極秘情報』(飛鳥新社)

  • 2020/05/14
お笑い大蔵省極秘情報 / テリー伊藤
お笑い大蔵省極秘情報
  • 著者:テリー伊藤
  • 出版社:飛鳥新社
  • 装丁:単行本(190ページ)
  • 発売日:1996-06-01
  • ISBN-10:487031293X
  • ISBN-13:978-4870312937
内容紹介:
「官僚の中の官僚」と呼ばれるエリート集団大蔵官僚へのバッシングの嵐が吹き荒れている。しかし、批判だけでは何も生まれない。そこで今回、水面下で粘り強くコンタクトをとった結果、三人の大蔵官僚と極秘に接触することに成功した…大蔵官僚の本音情報全掲載。

エリート中のエリートたちのホンネ

官僚それも大蔵省の、もっと言えば主計局のキャリア官僚。東大法学部卒のエリート中のエリート。いままさにバッシングの嵐(あらし)にさらされている彼等のホンネは何か(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年)。奇才テリー伊藤は、まことに巧みに彼等との対談を一冊の本に仕立て上げた。三人の匿名の大蔵官僚(年齢は三十代後半から四十代前半か)の発言に、創作部分まったくなしと言えるか否か微妙ではあるが、大旨本物であろう。

三人のホンネが織りなす大蔵官僚の世界は、まことに不思議な閉鎖空間だ。彼等によれば、相互監視で絶対裏切ることのできない十人程度のユニット単位の組織に、彼等の力の源泉がある。そのユニットの典型が主計局の主査であり、しかるが故に主計局は大蔵省で最も力を持つことになる。しかも一分の反抗も許されない研ぎすまされた社会であるからこそ、主計局には派閥のできる余地がなく、あえていえば主計局がまるごと主計閥になっていると言う。

その最強のユニットに大蔵省のキャリアなら、誰もが本心では入りたいと思っている。他方大蔵省以外の主体に対しては、個人であれ組織であれ、国有財産管理と税金徴収の二側面において、楽にコントロールできると彼等は異口同音に語る。

もちろん本書には、小学校以来の秀才ぶりや女性関係、家族問題に価値観などの大蔵官僚個人のプライバシーに関わる話も随所にちりばめられている。しかしそうしたワイドショー的ネタの部分よりは、先に触れた閉鎖空間の構造と実態の方にリアリティを感じさせる。この点に、お笑い硬派ドキュメントを自称するテリー伊藤の面目躍如たる趣があるとは言えまいか。

大蔵省が怖いのは、けして大蔵省分割論などではない。菅直人氏が厚生省でやったように、官僚自身を縦割りのしかも小さな単位に分けて再編成し、彼等の手によってエイズ問題の資料を発見させたコントロール方法に、彼等は脅威を見出す。外圧ではなくまさに内圧。

全体を通して、大蔵官僚の一見威勢のよい言葉の裏に、実はジワジワと迫りきたる制度疲労を実感し始めている彼等の真実の姿を見た思いがする。

【この書評が収録されている書籍】
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN-10:4643970472
  • ISBN-13:978-4643970470
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

お笑い大蔵省極秘情報 / テリー伊藤
お笑い大蔵省極秘情報
  • 著者:テリー伊藤
  • 出版社:飛鳥新社
  • 装丁:単行本(190ページ)
  • 発売日:1996-06-01
  • ISBN-10:487031293X
  • ISBN-13:978-4870312937
内容紹介:
「官僚の中の官僚」と呼ばれるエリート集団大蔵官僚へのバッシングの嵐が吹き荒れている。しかし、批判だけでは何も生まれない。そこで今回、水面下で粘り強くコンタクトをとった結果、三人の大蔵官僚と極秘に接触することに成功した…大蔵官僚の本音情報全掲載。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1996年8月4日

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