書評

『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』(KADOKAWA)

  • 2019/01/03
エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命 / 三浦 篤
エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命
  • 著者:三浦 篤
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:単行本(324ページ)
  • 発売日:2018-10-19
  • ISBN:4047035815
内容紹介:
芸術のルールを根本から変えた過激な画家。マネを起点に描く西洋絵画史

画家を通し美術史を照射

伝記を思わせる書名だが、その内容はマネの生涯と作品世界の紹介にとどまらない。マネの創作活動を通して、古典から現代にいたるまでの西洋美術の流れと、美術作品がなぜこのような構図や形態や色彩になっているかが、イメージの歴史という文脈において解き明かされた。

マネの画業を理解することは西洋絵画史を理解するのに等しい。この独自の見解を説明するために、三つの視点が用意されている。一つは、マネがどのように十九世紀以前の絵画伝統を学び、自らの創作に取り込んでいったかを跡付けることである。二つ目は、古典の受容を徹底的に行ったマネはどのように絵画の革新を試み、また、その新しさはどこに現れているかを作品ごとに検証することだ。最後に、現代美術に及ぼしたマネのインパクトを示して、古典と現代をつなげるマネの位置と作品の意義を再確認した。

破壊的な革新性を旗幟(きし)鮮明に打ち出し、物議や批判を怖(おそ)れないマネだが、修業時代から一八六〇年代前半にかけて、古典的美術を謙虚に学んでいた。美術館、個人コレクション、展覧会に足しげく通い、気に入った作品を模写しては、伝統の絵画から多くの養分を吸収した。やがて、過去の名作から構図や形態やモチーフを大胆に借用し、改作あるいは再解釈の試みを通して、自らの芸術のあり方を模索した。その過程はマネの作品と古典とのあいだの呼応関係に対する緻密な照合作業によって明らかにされている。

過渡期の人物によく見られるように、マネは「新」と「旧」の特質を併せ持っている。印象派の画家たちがサロンでの出品を諦め、自らの流儀を貫く独立の展覧会を開いているのに対し、マネは最後までサロンでの発表に固執し、公衆の支持を得ようとした。

画家としてまだ駆け出しの頃、西洋絵画の主流は歴史画か宗教画で、主題も神話、宗教、寓意(ぐうい)、古代史などに限られていた。アカデミズムに反発したマネは近代の都市空間や同時代の生活に目を向け、しかも、その「負」の一面や卑近な部分もあえて絵に取り込んで憚(はばか)らない。主題を大胆に一新しただけでなく、絵画表現においては、平面性や鮮やかな色彩対比など従来にない手法を試みた。

とりわけ興味を引かれたのは、イメージを等価に扱うという指摘だ。《老音楽師》などについての分析に見られるように、この画家はイメージの同質性をいち早く認識し、起源を問わずあらゆる視覚表象の断片を同一次元で操作し、独自の画風を作り上げようと試みた。その意味では、マネが現代のグラフィックデザインの先駆者といえるかもしれない。著者がマネの作品をメタ絵画と称したのもそのためであろう。

マネはそれまでの絵画のあり方を根本から変えただけではなく、後世の画家たちにも大きな影響を与えた。ドガやモネなどの印象派や、セザンヌやゴーガンなどの後期印象派のみならず、ボナールやピカソら十九、二十世紀の美術家たちにも巨大な影を落としたことは、丁寧な絵解きを通して示されている。

西洋絵画の膨大な画像のアーカイブから、マネが参照した作品や、マネが影響を及ぼした作品を次々と突き止める博識ぶりには圧倒された。人物やモチーフや細部描写についての何気ない指摘も、幅広い文献の渉猟と作品に対する徹底した吟味、並びに時代や人物の背景についての綿密な調査の賜物(たまもの)であろう。

領域を横断する画家の横顔を描いて、西洋美術史の転変をたどる。その鮮やかな手腕にはもはや脱帽するしかない。
エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命 / 三浦 篤
エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命
  • 著者:三浦 篤
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:単行本(324ページ)
  • 発売日:2018-10-19
  • ISBN:4047035815
内容紹介:
芸術のルールを根本から変えた過激な画家。マネを起点に描く西洋絵画史

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初出メディア

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