後書き

『図説 デザートの歴史』(原書房)

  • 2020/02/13
図説 デザートの歴史 / ジェリ・クィンジオ
図説 デザートの歴史
  • 著者:ジェリ・クィンジオ
  • 翻訳:富原 まさ江
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2020-01-22
  • ISBN-10:456205722X
  • ISBN-13:978-4562057221
内容紹介:
食事の最後の甘い至福、デザート。その歴史は意外に短い。
香辛料との深い関係、デザート誕生の背景、産業革命とデザートの進化、大衆文化の影響……デザートの奥深い歴史を楽しいエピソードと共に探訪する。
食事の最後の甘い至福、デザート。その歴史は意外に短い。
香辛料との深い関係、デザート誕生の背景、産業革命とデザートの進化、大衆文化の影響……デザートの奥深い歴史を楽しいエピソードと共に探訪する新刊、『図説 デザートの歴史』の訳者あとがきを特別公開する。

デザートの短くも濃い歴史

あなたのお気に入りのデザートはなんですか?
これは、本書『図説 デザートの歴史』を執筆中に著者ジェリ・クィンジオ氏が親戚や友人、知人に尋ねた質問です。
くわしくは序章に書かれていますが、楽しく話が弾むだろう、という著者の予想とは裏腹に、質問された人はみな「お子さんのなかでは誰がお気に入りですか?」と聞かれたかのように真剣な顔で考え込んでしまったそうです。
なかには悩みに悩んだ末に「答えがふたつ以上になってもかまわないか」と確認したり、ひとつ答えたあとで他のデザートの気分を損ねまいとするかのように別の種類を口にしたりする人もいたとのこと。

この反応に興味を持った私(訳者)は、改めて「自分のお気に入りのデザートはなんだろう?」と考えてみました。
まず頭に浮かんだのは、子供の頃母がよく作ってくれた素朴なパウンドケーキです。同時に、切り分けてもらったケーキのお皿を手に、近くに住んでいた従姉妹たちとテレビのオリンピック中継を夢中で見ていた光景も蘇ってきました。
次に思い出したのは大人になってからの記憶で、砂糖も牛乳も使わないお手製のケーキ。別にマクロビに凝っていたわけではなく、当時飼っていた愛犬と一緒に食べたくて作った苦心の作です。味のないぱさついたケーキを大よろこびでぱくついていた姿は可愛かったなあ。それから……

気がつくと、私もかなり真剣に考え込んでいました。おそらく眉間には深いしわが寄っていたことでしょう。どれかひとつに絞って、と言われたらさらに悩んだに違いありません。
それにしても、好きなデザートのことを考えるうちに、それにまつわる思い出まで次々と、それも鮮やかに浮かんできたことにわれながら驚きました。
プルーストの傑作『失われた時を求めて』には「過去の思い出を一気に蘇らせた」マドレーヌが出てきますが、お気に入りのデザートは確かに昔の記憶と深くつながっているようです。少し大げさに言うなら、デザートを語ることはその人の原点を語ることと同じだと言えるのかもしれません。

このように、デザートは私たちの人生において大きな位置を占める大切な存在ですが、その歴史は意外にもそう長くないのです。こう言うと、昔の人々は菓子(甘い料理)を食べていなかったのかと思われそうですが、もちろんそんなことはありません。
たとえば、本書に掲載されている写真を見れば、早くも古代エジプトでフルーツケーキらしきものが作られていたことがわかります。

また、中世のヨーロッパ社会においては料理人たちが腕を競い、建造物さながらの大掛かりな娯楽料理なるものも登場しました。ただし、この頃までは甘い料理を堪能できるのは王侯貴族といった特権階級に限られていましたし、甘い料理は香辛料の効いた料理とともに食事の途中でも出されていました。
食事の最後に供されることもありましたが、それは現在のデザートの概念とは違い、満足感を得られるものを最後に食べて「胃を閉じる」ことで体調が維持できるという当時の医学理論を重視した結果だったのです。

デザートが現在のように食事の最後のお楽しみとしてテーブルを飾り、また誰もが手頃な値段で食べられるようになるまでには、さまざまな争いや侵略行為、新大陸発見、産業革命、貿易ルートや流通の拡大が不可欠でした。
本書では、デザートが発展していった経緯が興味深いエピソードを交えてくわしく紹介されています。
ほかにも中世から現在までのデザートのレシピ、世界各国の伝統菓子と食文化(日本の「別腹」についての記述もあります!)、最新科学を応用して料理を作る現代の分子ガストロノミーなど、内容は盛りだくさん。
本書を読んでデザートの短くも濃い歴史に触れたあとは、「現在のパティシエたちも、この脈々と続く進化の歴史の一部なのだ」という著者の言葉がいっそう重みを増すことでしょう。

[書き手]富原まさ江(翻訳家)
図説 デザートの歴史 / ジェリ・クィンジオ
図説 デザートの歴史
  • 著者:ジェリ・クィンジオ
  • 翻訳:富原 まさ江
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2020-01-22
  • ISBN-10:456205722X
  • ISBN-13:978-4562057221
内容紹介:
食事の最後の甘い至福、デザート。その歴史は意外に短い。
香辛料との深い関係、デザート誕生の背景、産業革命とデザートの進化、大衆文化の影響……デザートの奥深い歴史を楽しいエピソードと共に探訪する。

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