基本書は奇数冊買うこと
国も会社も頼りにならない時代、株や国債より確実なのは自分の頭に投資することだ。思考力と判断力と勘さえあれば、いつでもどこでも生きていける。頭に投資するにはどうすればいいか。学校に通ったり通信教育を受けるのもいいが、もっとも手軽でお金もかからないのは書物。本を読むことだろう。ただし、書物にもいろいろある。何をどう読むかが問題だ。
佐藤優『読書の技法』は月産千枚という著者の知的生産の技術である。ビジネス誌に連載したものをベースにしていて、サラリーマンを読者に想定している。
生産量十分の一以下のぼくにも役立つノウハウがたくさん紹介されている。
たとえば何か知りたいと思ったとき、基本書は3冊(または5冊)買って真ん中あたりから読む。同じテーマでも著者によって見解が違う。3冊(または5冊)の数にするのは、多数決が可能であり、それによってどちらが正しいかについて素人判断を避けられるからだ。本を複数買うのはもったいない、なんて思ってはいけない。
いちばん感心したのは、高校や高専の教科書、参考書を活用するというアイデアだ。「高校レベルの基礎知識をつけるのが、最も確実で効率的な知の道」だと言う。なおかつ、具体的に教科書や参考書を引用しながら、どこがどう重要なのかを教えてくれる。巻末には登場する書籍のリストがあるから、これを手がかりに入手しよう。ポイントは『世界史B』の教科書らしい(教科書の流通ルートは一般の書籍と少し違うので要注意)。
おもしろいのが、鳩山由紀夫元首相の思考と行動を数学の偏微分の概念で捉える話。ロシアの数学者、マルコフの研究者であり、工学者でもある元首相は、「関数体として物事を考える」のだそうだ。それが普天間飛行場の「最低でも県外」という発言になった。しかし政治判断には積分法も重要なのだと著者はいう。元首相は決してルーピーではなかったのだ。