書評

『堂々たる日本人―知られざる岩倉使節団』(祥伝社)

  • 2020/10/13
堂々たる日本人―知られざる岩倉使節団 / 泉 三郎
堂々たる日本人―知られざる岩倉使節団
  • 著者:泉 三郎
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:文庫(291ページ)
  • 発売日:2004-06-01
  • ISBN-10:4396313500
  • ISBN-13:978-4396313500
内容紹介:
明治4年、岩倉具視を団長とする遣米欧使節団が横浜を出港した。近代国家の青写真を描くため、大久保利通、伊藤博文らも参加したが、1年10ヶ月もの壮大な旅となった。欧米人が驚嘆した、彼らの"堂々たる"態度とは。
写真・絵図で甦る堂々たる日本人―この国のかたちを創った岩倉使節団「米欧回覧」の旅 / 泉 三郎
写真・絵図で甦る堂々たる日本人―この国のかたちを創った岩倉使節団「米欧回覧」の旅
  • 著者:泉 三郎
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:単行本(170ページ)
  • 発売日:2001-12-03
  • ISBN-10:4396611404
  • ISBN-13:978-4396611408
内容紹介:
130年ほど前に、1年9か月の長きにわたって世界を旅した日本人がいる。岩倉具視をはじめ、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文といった明治維新のリーダーたちである。その「米欧回覧」の一行には、… もっと読む
130年ほど前に、1年9か月の長きにわたって世界を旅した日本人がいる。岩倉具視をはじめ、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文といった明治維新のリーダーたちである。その「米欧回覧」の一行には、中江兆民や津田梅子(津田塾の創設者)といった留学生も含まれていた。まさに、日本のトップエリートたちが集った使節団であったのだ。
著者の泉三郎は、使節団の全行程を数年かけて踏破し、研究を重ねてきた人物である。本書では、横浜港より太平洋を越えて北米大陸を横断、ヨーロッパを歴訪し、アジア各地を経て長崎に帰港した使節団の足跡を、当時の旅の記録書『米欧回覧実記』を中心に、多数の写真、図版、銅版画、イラストなどを引用しながら再現している。さながら当時の各国の様子や人々の暮らしぶりが描かれているガイドブックを見ているような気分になれる。

実は、この使節団には、日本と欧米列国の間で結ばれた不平等条約を改正するための予備交渉という大目的があった。しかし彼らは、高度な西洋文明にカルチャーショックを受け、立ち後れている日本の現状に愕然としたという本音を『米欧回覧実記』の中で漏らしている。とはいうものの、その文明の咀嚼(そしゃく)に努め、さらに各国の貧民街や列強の植民地と化しているアジア諸国の惨状といった、文明の「闇」の部分からも目をそらそうとしなかった彼らの、単なる好奇心を越えた強靱な精神力には敬服するばかりである。その後日本がたどった富国強兵策の行方に思いを巡らせながら眺めたい本である。(朝倉真弓)

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


元気になる話

この頃は日本人全体が勇気や覇気を失ってなんとなく国全体が自信喪失の体であるように思われる(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2004年)。

そういうなかで、私は最近幕末から明治にかけての日本の青年たちの事跡を勉強して、非常に勇気づけられた。

通称「薩摩スチューデント」というのだが、これは慶応元年に薩摩藩が国禁を冒してイギリスに派遣した十九人の留学生ならびに使節たちで、そのなかに、後の文部卿森有礼、外務卿寺島宗則、海軍大学校長松村淳蔵、大外交官鮫島尚信、初代帝室博物館長町田久成、初代開成学校長畠山義成、大坂財界の父五代友厚、サッポロビールの創設者村橋久成、カリフォルニアワインの父長沢鼎その他、錚々たる人材が含まれている。この青春群像を、私は目下『薩摩スチューデント』という長編歴史小説として連載中(小説宝石)なのだが、そのために種々の文献を渉猟していると、この時代の日本の青年たちが、いかに溌溂たる覇気を帯びて、正々堂々西欧の人士と渡り合ったかが分かり、じつに感銘深い。これらの実在の青年たちから受ける感銘と勇気は、『ラスト・サムライ』なんかてんで目じゃないのである。が、彼らについてはとてもここには書ききれないので、興味がおありの方は拙作小説をご一読願うことにして、もう一つ、堂々たる日本人青年たちの事跡に言及しておきたい。

それは、明治の四年から六年にかけて、明治政府の要人(と言ったってまだ青年たちなのだが)がこぞって出かけていった所謂「岩倉使節団」のことである。

これについては、泉三郎さんの『堂々たる日本人』(祥伝社)という本に面白く書かれている。泉さんは、この岩倉使節団の研究家で、世界を股にかけた彼らの事跡をすべて実地に再踏査して歩いたという人だが、それだけに読むに従って興味津々たるものがある。

さらに『写真・絵図で甦る/堂々たる日本人』(祥伝社)という本も出されていて、これは当時の写真や絵図などを網羅的に掲載しているから、いっそう具体的に分かるようになっている。

そのなかに、当時彼らが欧米で撮影したポートレート写真があれこれと出ているのだが、どれもその顔つきの立派なことに驚かされる。いっそ眉目秀麗と言ってもいいくらい見事な目鼻立ちをして、これならきっと西欧の人たちと対峙して一歩も引けを取らない相貌であったろうと想像される。この一行には津田梅子、山川捨松ら五人の少女留学生が随行していたのだが、例えば彼女たちについて、当時のニューヨークタイムスは「とても活発でキビキビしているが、その物腰は人に頼らぬ堂々としたものである」と書いた、とある。嬉しいではないか。

明治はもう遥かに遠くなってしまったけれど、しかし、その原点のところで、青年たちはみなこの国を背負って苦闘したのだ。がんばろう日本人! 百三十年の昔から、彼らがそうエールを送ってくれているような気がする。

●文中の『薩摩スチューデント、西へ』は、2007年に光文社から単行本として刊行され、その後、増訂文庫版が2010年に光文社文庫から刊行された。

写真・絵図で甦る堂々たる日本人―この国のかたちを創った岩倉使節団「米欧回覧」の旅 / 泉 三郎
写真・絵図で甦る堂々たる日本人―この国のかたちを創った岩倉使節団「米欧回覧」の旅
  • 著者:泉 三郎
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:単行本(170ページ)
  • 発売日:2001-12-03
  • ISBN-10:4396611404
  • ISBN-13:978-4396611408
内容紹介:
130年ほど前に、1年9か月の長きにわたって世界を旅した日本人がいる。岩倉具視をはじめ、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文といった明治維新のリーダーたちである。その「米欧回覧」の一行には、… もっと読む
130年ほど前に、1年9か月の長きにわたって世界を旅した日本人がいる。岩倉具視をはじめ、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文といった明治維新のリーダーたちである。その「米欧回覧」の一行には、中江兆民や津田梅子(津田塾の創設者)といった留学生も含まれていた。まさに、日本のトップエリートたちが集った使節団であったのだ。
著者の泉三郎は、使節団の全行程を数年かけて踏破し、研究を重ねてきた人物である。本書では、横浜港より太平洋を越えて北米大陸を横断、ヨーロッパを歴訪し、アジア各地を経て長崎に帰港した使節団の足跡を、当時の旅の記録書『米欧回覧実記』を中心に、多数の写真、図版、銅版画、イラストなどを引用しながら再現している。さながら当時の各国の様子や人々の暮らしぶりが描かれているガイドブックを見ているような気分になれる。

実は、この使節団には、日本と欧米列国の間で結ばれた不平等条約を改正するための予備交渉という大目的があった。しかし彼らは、高度な西洋文明にカルチャーショックを受け、立ち後れている日本の現状に愕然としたという本音を『米欧回覧実記』の中で漏らしている。とはいうものの、その文明の咀嚼(そしゃく)に努め、さらに各国の貧民街や列強の植民地と化しているアジア諸国の惨状といった、文明の「闇」の部分からも目をそらそうとしなかった彼らの、単なる好奇心を越えた強靱な精神力には敬服するばかりである。その後日本がたどった富国強兵策の行方に思いを巡らせながら眺めたい本である。(朝倉真弓)

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堂々たる日本人―知られざる岩倉使節団 / 泉 三郎
堂々たる日本人―知られざる岩倉使節団
  • 著者:泉 三郎
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:文庫(291ページ)
  • 発売日:2004-06-01
  • ISBN-10:4396313500
  • ISBN-13:978-4396313500
内容紹介:
明治4年、岩倉具視を団長とする遣米欧使節団が横浜を出港した。近代国家の青写真を描くため、大久保利通、伊藤博文らも参加したが、1年10ヶ月もの壮大な旅となった。欧米人が驚嘆した、彼らの"堂々たる"態度とは。

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スミセイベストブック 2004年7月号

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