書評
『堂々たる日本人―知られざる岩倉使節団』(祥伝社)
元気になる話
この頃は日本人全体が勇気や覇気を失ってなんとなく国全体が自信喪失の体であるように思われる(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2004年)。そういうなかで、私は最近幕末から明治にかけての日本の青年たちの事跡を勉強して、非常に勇気づけられた。
通称「薩摩スチューデント」というのだが、これは慶応元年に薩摩藩が国禁を冒してイギリスに派遣した十九人の留学生ならびに使節たちで、そのなかに、後の文部卿森有礼、外務卿寺島宗則、海軍大学校長松村淳蔵、大外交官鮫島尚信、初代帝室博物館長町田久成、初代開成学校長畠山義成、大坂財界の父五代友厚、サッポロビールの創設者村橋久成、カリフォルニアワインの父長沢鼎その他、錚々たる人材が含まれている。この青春群像を、私は目下『薩摩スチューデント』という長編歴史小説として連載中(小説宝石)なのだが、そのために種々の文献を渉猟していると、この時代の日本の青年たちが、いかに溌溂たる覇気を帯びて、正々堂々西欧の人士と渡り合ったかが分かり、じつに感銘深い。これらの実在の青年たちから受ける感銘と勇気は、『ラスト・サムライ』なんかてんで目じゃないのである。が、彼らについてはとてもここには書ききれないので、興味がおありの方は拙作小説をご一読願うことにして、もう一つ、堂々たる日本人青年たちの事跡に言及しておきたい。
それは、明治の四年から六年にかけて、明治政府の要人(と言ったってまだ青年たちなのだが)がこぞって出かけていった所謂「岩倉使節団」のことである。
これについては、泉三郎さんの『堂々たる日本人』(祥伝社)という本に面白く書かれている。泉さんは、この岩倉使節団の研究家で、世界を股にかけた彼らの事跡をすべて実地に再踏査して歩いたという人だが、それだけに読むに従って興味津々たるものがある。
さらに『写真・絵図で甦る/堂々たる日本人』(祥伝社)という本も出されていて、これは当時の写真や絵図などを網羅的に掲載しているから、いっそう具体的に分かるようになっている。
そのなかに、当時彼らが欧米で撮影したポートレート写真があれこれと出ているのだが、どれもその顔つきの立派なことに驚かされる。いっそ眉目秀麗と言ってもいいくらい見事な目鼻立ちをして、これならきっと西欧の人たちと対峙して一歩も引けを取らない相貌であったろうと想像される。この一行には津田梅子、山川捨松ら五人の少女留学生が随行していたのだが、例えば彼女たちについて、当時のニューヨークタイムスは「とても活発でキビキビしているが、その物腰は人に頼らぬ堂々としたものである」と書いた、とある。嬉しいではないか。
明治はもう遥かに遠くなってしまったけれど、しかし、その原点のところで、青年たちはみなこの国を背負って苦闘したのだ。がんばろう日本人! 百三十年の昔から、彼らがそうエールを送ってくれているような気がする。
●文中の『薩摩スチューデント、西へ』は、2007年に光文社から単行本として刊行され、その後、増訂文庫版が2010年に光文社文庫から刊行された。
初出メディア

スミセイベストブック 2004年7月号
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