書評
『白檀の刑〈上〉』(中央公論新社)
物語の舞台は作者の故郷・山東省高密県。一九〇〇年、山東省の膠州湾一帯を清朝から無理やり租借したドイツが膠済鉄道の敷設に着手し――という史実を背景に、莫言十八番の語りの騙(かた)り&重層性&笑いが横溢する、これは二十一世紀型のネオ説話文学なのだ。ニャオ。
犬肉料理の名人にして見目麗しい眉娘。高密県に伝わる地方劇・猫腔の名高き謡い手でありながら、ドイツに対する民衆の抵抗を組織し捕らえられてしまうその父・孫丙。物語は、眉娘が愛人である県知事の銭丁に命乞いに行くシーンから幕を開ける。が、一役人に過ぎない銭丁は中央政府に楯突くことはできず、孫丙はこの世でもっとも残酷とされている「白檀の刑」に処されることになってしまう。衰世凱からその処刑人に指名されたのが、眉娘の亭主の父親・趙甲。長年にわたり首都北京の刑部大堂で主席処刑人を務め、かの西太后にも謁見を賜ったほどの人物なのだが、先頃引退して、犬や豚の落としを生業とする少し頭の足りない息子・小甲のもとに身を寄せている。ニャオニャオ。
物語の“頭部”と“尾部”各章をこれら五人の一人称語りに任せ、“腹部”にあたる九つの章を全知の語り手が担当。蓮っぱで威勢のいい眉娘の感情的な声、悩めるインテリ銭丁の明晰な声、猫腔の節回しも絶妙な孫丙の大音声、女房の浮気も察知できない小甲の鈍くさい声、そして、自分が経験してきた陰惨きわまりない死刑のエピソードをねちっこく語る趙甲の残酷な声。この小説には、様々なレベルの声が響きわたっている。とりわけ趙甲のパートが、凄絶にして絶品! こんな怖ろしい処刑の数々を思いつく中国人って、凄すぎっ。ニャオニャオニャオ! と、思わず猫腔語りの真似をしたくなる傑作なんであります。
【下巻】
【この書評が収録されている書籍】
犬肉料理の名人にして見目麗しい眉娘。高密県に伝わる地方劇・猫腔の名高き謡い手でありながら、ドイツに対する民衆の抵抗を組織し捕らえられてしまうその父・孫丙。物語は、眉娘が愛人である県知事の銭丁に命乞いに行くシーンから幕を開ける。が、一役人に過ぎない銭丁は中央政府に楯突くことはできず、孫丙はこの世でもっとも残酷とされている「白檀の刑」に処されることになってしまう。衰世凱からその処刑人に指名されたのが、眉娘の亭主の父親・趙甲。長年にわたり首都北京の刑部大堂で主席処刑人を務め、かの西太后にも謁見を賜ったほどの人物なのだが、先頃引退して、犬や豚の落としを生業とする少し頭の足りない息子・小甲のもとに身を寄せている。ニャオニャオ。
物語の“頭部”と“尾部”各章をこれら五人の一人称語りに任せ、“腹部”にあたる九つの章を全知の語り手が担当。蓮っぱで威勢のいい眉娘の感情的な声、悩めるインテリ銭丁の明晰な声、猫腔の節回しも絶妙な孫丙の大音声、女房の浮気も察知できない小甲の鈍くさい声、そして、自分が経験してきた陰惨きわまりない死刑のエピソードをねちっこく語る趙甲の残酷な声。この小説には、様々なレベルの声が響きわたっている。とりわけ趙甲のパートが、凄絶にして絶品! こんな怖ろしい処刑の数々を思いつく中国人って、凄すぎっ。ニャオニャオニャオ! と、思わず猫腔語りの真似をしたくなる傑作なんであります。
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