書評

『白檀の刑〈上〉』(中央公論新社)

  • 2024/03/28
白檀の刑〈上〉 / 莫 言
白檀の刑〈上〉
  • 著者:莫 言
  • 翻訳:吉田 富夫
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(417ページ)
  • 発売日:2010-09-22
  • ISBN-10:4122053668
  • ISBN-13:978-4122053663
内容紹介:
清朝末期、膠州湾一帯を租借したドイツ人の暴虐の果てに妻子と隣人を奪われた孫丙は、怒り心頭し鉄道敷設現場を襲撃する。近代装備の軍隊による非道な行いの前には、人の尊厳はありえないのか。哀切な猫腔が響き渡り、壮大な歴史絵巻が花開く。現代中国文学の最高峰と誉れ高い莫言文学、待望の文庫化。
物語の舞台は作者の故郷・山東省高密県。一九〇〇年、山東省の膠州湾一帯を清朝から無理やり租借したドイツが膠済鉄道の敷設に着手し――という史実を背景に、莫言十八番の語りの騙(かた)り&重層性&笑いが横溢する、これは二十一世紀型のネオ説話文学なのだ。ニャオ。

犬肉料理の名人にして見目麗しい眉娘。高密県に伝わる地方劇・猫腔の名高き謡い手でありながら、ドイツに対する民衆の抵抗を組織し捕らえられてしまうその父・孫丙。物語は、眉娘が愛人である県知事の銭丁に命乞いに行くシーンから幕を開ける。が、一役人に過ぎない銭丁は中央政府に楯突くことはできず、孫丙はこの世でもっとも残酷とされている「白檀の刑」に処されることになってしまう。衰世凱からその処刑人に指名されたのが、眉娘の亭主の父親・趙甲。長年にわたり首都北京の刑部大堂で主席処刑人を務め、かの西太后にも謁見を賜ったほどの人物なのだが、先頃引退して、犬や豚の落としを生業とする少し頭の足りない息子・小甲のもとに身を寄せている。ニャオニャオ。

物語の“頭部”と“尾部”各章をこれら五人の一人称語りに任せ、“腹部”にあたる九つの章を全知の語り手が担当。蓮っぱで威勢のいい眉娘の感情的な声、悩めるインテリ銭丁の明晰な声、猫腔の節回しも絶妙な孫丙の大音声、女房の浮気も察知できない小甲の鈍くさい声、そして、自分が経験してきた陰惨きわまりない死刑のエピソードをねちっこく語る趙甲の残酷な声。この小説には、様々なレベルの声が響きわたっている。とりわけ趙甲のパートが、凄絶にして絶品! こんな怖ろしい処刑の数々を思いつく中国人って、凄すぎっ。ニャオニャオニャオ! と、思わず猫腔語りの真似をしたくなる傑作なんであります。

【下巻】
白檀の刑〈下〉 / 莫 言
白檀の刑〈下〉
  • 著者:莫 言
  • 翻訳:吉田 富夫
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(409ページ)
  • 発売日:2010-09-22
  • ISBN-10:4122053676
  • ISBN-13:978-4122053670
内容紹介:
捕らわれた孫丙に極刑を下すのは、西太后の覚えもめでたい清朝の首席処刑人・趙甲。生涯の誇りをかけて、一代の英雄にふさわしい未曾有の極刑を準備する。処刑場には白檀の香りが-。罪人の実父と処刑人の義父、愛人の県知事の狭間で孫丙の娘・眉娘が狂奔する。生は血の叫喚にむせぶ、怒涛の大団円。

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【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

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白檀の刑〈上〉 / 莫 言
白檀の刑〈上〉
  • 著者:莫 言
  • 翻訳:吉田 富夫
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(417ページ)
  • 発売日:2010-09-22
  • ISBN-10:4122053668
  • ISBN-13:978-4122053663
内容紹介:
清朝末期、膠州湾一帯を租借したドイツ人の暴虐の果てに妻子と隣人を奪われた孫丙は、怒り心頭し鉄道敷設現場を襲撃する。近代装備の軍隊による非道な行いの前には、人の尊厳はありえないのか。哀切な猫腔が響き渡り、壮大な歴史絵巻が花開く。現代中国文学の最高峰と誉れ高い莫言文学、待望の文庫化。

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初出メディア

婦人公論

婦人公論 2003年11月7日号

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