書評
『真珠湾攻撃総隊長の回想 淵田美津雄自叙伝』(講談社)
いかにして恩讐を乗り越えたか
またこの頃はなにやらキナ臭い空気が忍び寄って来つつある。人間は、いつになったら、愚かな戦いをやめるのであろうか、と柄にもないことをつい口にしてみたくなった。真珠湾攻撃総隊長として指揮した淵田美津雄中佐という人がいた。その淵田中佐が戦後密かに書き綴った自伝があって、本書はその淵田自伝を初めて公にした一書、中田整一氏の解説が付されている。
私などは、もとより何の先入観もなく、その分また何の期待もなく読み始めたのだが、読むにつれて、次第に引き込まれ、とうとう徹夜して読んでしまった。
なにしろ、ここに書かれた淵田の言葉には迷いがない。格物致知的な意味で、実際の戦場を生き抜いてきた人の偽りのない気持ちが存分に書かれていて、軍神に祀り上げられた山本五十六でさえ、現場の指揮官としての目からみれば歴然たる凡将であったと鋭く批判されているのには、まさに刮目すべきものがある。
そうして淵田は戦後、恩讐を越えたキリスト教の救いの教えに接して俄然回心し、敬虔なバプティスト系のクリスチャンとなって、アメリカ各地、日本全国で伝道の証言をして歩くようになる。ではその、回心の一点は奈辺にあったのか、というところがこの本のほんとうに面白いところである。私はクリスチャンではないけれど、なるほどこういうことが信仰への契機となるのかと、大きな教えを得た気がした。そしてその信仰を軸として、かつての敵同士が崇高な友情を樹立するくだりは、どうしたって涙なくしては読めない。この本に書かれていることを、教育者や政治家などは、ぜひ良く読んで考えてほしいものと思った。
初出メディア

スミセイベストブック 2008年12月号
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