前書き
『経済の流れと仕組みでわかる人類の1万年史』(原書房)
人類は何を生み出し、そこにどんな問題が生じ、解決に導き、前進を続けてきたのか。人類が営々とつむいできた「生産」と「交換」、そして「開発」と「発展」の変遷を通じて俯瞰した経済・社会・政治・文化の統合史を、『エコノミスト』誌のジャーナリストがわかりやすく身近な例を挙げながら案内。未来へのヒントもたっぷり詰まった書籍『経済の流れと仕組みでわかる人類の1万年史』はじめにを公開します。
うっかりすると全体像を見失う。過去300年間で人間の歴史には大きな変化があった。この変化があったからこそ、人口が増え、寿命が延び、背が高くなり、健康になった。貧困は未だ世界にはびこっているが、豊かさはこの数十年間でかつてないほど広がり、それには中国の経済成長が大きく影響している。こうしたストーリーは充分に語られていないし、理解されていない。それがこの本を書く動機になった。
今から30年前、私が初の著書 The Money Machine(未邦訳)を書くことにしたのは、金融について学ぶ必要があるのに一般向けの入門書がないと気づいたからだった。世界経済についても同様の貢献ができると思った。もちろん、経済史についてはすでに素晴らしい本がいろいろあるが、だいたいどれも、何々の決定的要因はこれという説明で終わっている。本書は全体像を求める人のために書いた。
2016年の時点で、それが途方もなくたいへんな仕事になるとわかっていたら、手を出さなかったかもしれない。『エコノミスト』の記者として私にはフルタイムの仕事があるというのに、この本のために読まなければならない文献が山ほどあった。
先に言わせてもらうが、この本はジャーナリストが書いたもので、学者が書いたものではない。テーマ別の各章は独自のレポートである。しかし、本書の大部分は私より前に活躍した学者たちの優れた業績を参考にしている。
統計については、ひとことお断りしておく。アンガス・マディソンのような歴史家は様々な段階の世界経済のスケールを推定するために膨大な労力を費やしていたし、物価や収入、寿命に関する情報を求めてデータをくまなく探した人もいた。しかし、大きな誤差が出るのは避けがたく、現代社会でさえ経済の数値を正しく算出することは難しい。それゆえ、本書に載せた数値で経済成長の水準に関しては、おおまかな推測に過ぎない。
[書き手]フィリップ・コガン(経済ジャーナリスト、ニュース特派員)
経済史の全体像が知りたい方へ
私たちは歴史について考えるとき、革命や戦争、国王――かつて「マップス(地図)・アンド・チャップス(男たち)」と言われた事柄――に注目しがちだ。そして、私たちが経済について語るとき、インフレと雇用の現在の数値や、学者が説明に使う複雑な方程式や専門用語が中心になる。うっかりすると全体像を見失う。過去300年間で人間の歴史には大きな変化があった。この変化があったからこそ、人口が増え、寿命が延び、背が高くなり、健康になった。貧困は未だ世界にはびこっているが、豊かさはこの数十年間でかつてないほど広がり、それには中国の経済成長が大きく影響している。こうしたストーリーは充分に語られていないし、理解されていない。それがこの本を書く動機になった。
今から30年前、私が初の著書 The Money Machine(未邦訳)を書くことにしたのは、金融について学ぶ必要があるのに一般向けの入門書がないと気づいたからだった。世界経済についても同様の貢献ができると思った。もちろん、経済史についてはすでに素晴らしい本がいろいろあるが、だいたいどれも、何々の決定的要因はこれという説明で終わっている。本書は全体像を求める人のために書いた。
2016年の時点で、それが途方もなくたいへんな仕事になるとわかっていたら、手を出さなかったかもしれない。『エコノミスト』の記者として私にはフルタイムの仕事があるというのに、この本のために読まなければならない文献が山ほどあった。
先に言わせてもらうが、この本はジャーナリストが書いたもので、学者が書いたものではない。テーマ別の各章は独自のレポートである。しかし、本書の大部分は私より前に活躍した学者たちの優れた業績を参考にしている。
統計については、ひとことお断りしておく。アンガス・マディソンのような歴史家は様々な段階の世界経済のスケールを推定するために膨大な労力を費やしていたし、物価や収入、寿命に関する情報を求めてデータをくまなく探した人もいた。しかし、大きな誤差が出るのは避けがたく、現代社会でさえ経済の数値を正しく算出することは難しい。それゆえ、本書に載せた数値で経済成長の水準に関しては、おおまかな推測に過ぎない。
[書き手]フィリップ・コガン(経済ジャーナリスト、ニュース特派員)