書評

『悪口ってなんだろう』(筑摩書房)

  • 2023/11/29
悪口ってなんだろう / 和泉 悠
悪口ってなんだろう
  • 著者:和泉 悠
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(160ページ)
  • 発売日:2023-08-07
  • ISBN-10:448068459X
  • ISBN-13:978-4480684592
内容紹介:
「○○さんは悩みがなくていいね」「冗談で言っただけだよ」「アホと言う方がアホだ」「ほんま私頭悪いから」「どうして一生懸命やらないの」「人として下だよね」「いじってあげてるだけじゃ… もっと読む
「○○さんは悩みがなくていいね」「冗談で言っただけだよ」「アホと言う方がアホだ」
「ほんま私頭悪いから」「どうして一生懸命やらないの」「人として下だよね」
「いじってあげてるだけじゃん」「事実を述べて何が悪いんですか」
これらは悪口だろうか? どこが悪いか説明できるだろうか?

悪口はなぜ悪いのかを問われたとき、シンプルに「人を傷つけるから」といった理由が思い浮かぶかもしれない。たしかに子どものころに「そんなこと言われたら傷つくでしょ」といって、悪口をたしなめられたことがあるだろう。ただしそれでは悪口の悪さをうまく説明できていない。たとえば、恋人からの別れのことばで傷ついてしまうかもしれないが、それはもちろん悪口ではない。

□悪口とは何か?
□悪口と軽口や冗談は何が違うのだろうか?
□まっとうな批判とは何が違うのだろうか?
□どうして「タコ」とか「ザコ」とか他の生き物を指すことばで悪口を言うのだろうか?
□どうして悪口を言うのは楽しいのだろうか?
□悪口はなくならないのだろうか?
こうした問いに答え、悪口を通じて人間の本質に迫る。
たとえば、「毎日新聞は読売新聞よりも発行部数が少ない」という文章は悪口だろうか。事実なので悪口ではない。では、「だから、毎日新聞は読売新聞よりも発行部数が少ないんだよ」ではどうか。その前の文章や発言を想像すると、おそらく悪口なのだろう。

どこからが悪口になるのかを規定するのは難しい。「あんな部長辞めろ!」と酒場で言えば悪口だし、「部長、辞めてください!」と会議で言えば、勇敢な存在になる。

『悪口ってなんだろう』(和泉悠著・ちくまプリマー新書・880円)はまず、「悪口とは『誰かと比較して人を劣った存在だと言うこと』です」と定義する。悪口になってしまう言葉とは何なのかと考えがちだが、同じ「バカじゃないの?」でも、電車を寝過ごしてしまった後で親友から言われるのと、学校の先生から授業中に言われるのではまったく違う。悪口は、言葉でなく、誰かを劣った存在として取り扱う時に生じるのだ。

「~さんは悩みがなくていいですね!」のように、褒める言葉でも悪口になる。著者は「悪口はイコライザーとして使っていくべきです」と書く。イコライザーとは「イコールにする」との意味。政治権力が民衆を力でねじ伏せようとする。「政治家は本質的に市民と同じランクの人物であり、代表するという役割を持っているだけです」。確かにその通り。だから、厳しい言葉を向ければいい。悪口でイコールにするのだ。

このところ、批判・批評・指摘などが「悪口」と一緒くたにされ、そういうのはよくないよ、と話をまとめられてしまう光景に立ち会う。異議申し立てには様々な事情や意図があるのに、勝手に用意した「悪口」の箱に詰め込んで処理しようとする。

誰かの意見を、それって悪口だよね、と急いで片付けようとする動きこそ、悪口の力を悪用しているのではないか。「悪質な悪口とそれ以外の線引きが本質的に難しい」と述べるように、そう簡単に決められるものではないはず。この地点に立ち返らせてくれる。
悪口ってなんだろう / 和泉 悠
悪口ってなんだろう
  • 著者:和泉 悠
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(160ページ)
  • 発売日:2023-08-07
  • ISBN-10:448068459X
  • ISBN-13:978-4480684592
内容紹介:
「○○さんは悩みがなくていいね」「冗談で言っただけだよ」「アホと言う方がアホだ」「ほんま私頭悪いから」「どうして一生懸命やらないの」「人として下だよね」「いじってあげてるだけじゃ… もっと読む
「○○さんは悩みがなくていいね」「冗談で言っただけだよ」「アホと言う方がアホだ」
「ほんま私頭悪いから」「どうして一生懸命やらないの」「人として下だよね」
「いじってあげてるだけじゃん」「事実を述べて何が悪いんですか」
これらは悪口だろうか? どこが悪いか説明できるだろうか?

悪口はなぜ悪いのかを問われたとき、シンプルに「人を傷つけるから」といった理由が思い浮かぶかもしれない。たしかに子どものころに「そんなこと言われたら傷つくでしょ」といって、悪口をたしなめられたことがあるだろう。ただしそれでは悪口の悪さをうまく説明できていない。たとえば、恋人からの別れのことばで傷ついてしまうかもしれないが、それはもちろん悪口ではない。

□悪口とは何か?
□悪口と軽口や冗談は何が違うのだろうか?
□まっとうな批判とは何が違うのだろうか?
□どうして「タコ」とか「ザコ」とか他の生き物を指すことばで悪口を言うのだろうか?
□どうして悪口を言うのは楽しいのだろうか?
□悪口はなくならないのだろうか?
こうした問いに答え、悪口を通じて人間の本質に迫る。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年10月7日

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