「<英語>文学の現在(いま)へ」というシリーズの第一巻である。「英文学」ではないところに留意したい。第二次大戦前後から世界中で<英語>という表現媒体を共有し問い直してきた作家たちを紹介する研究書シリーズだ。
クッツェー研究の第一人者である著者による本書は、学生読者も意識してテーマ別ではなく年代順の構成をとっているが、それを貫くテーマが幾つもある。
文体論としては、英語「時制」に焦点を当て、現在形で書くことの多い作家にあって作品の一部がなぜ過去形で書かれたかを解く。また、『動物のいのち』『エリザベス・コステロ』に書かれる共感的想像力。それをもって動物の内部に入りこむことについて、クッツェーの思考に沿いながら敷衍(ふえん)してくれる。「生まれつき翻訳」という概念も重要だ。翻訳書に擬態して現れた「イエス三部作」などが志向するものは何か?
著者最大の関心事は第一作『ダスクランズ』から最新作までつらなる、私が私であることの偶然性という問題だ。これに一冊通して迫る。作家論として網羅的かつ、一般読者にもありがたい解説書である。