冷静にそして忠実に
「未曾有の」という形容が、その本義においてもっともふさわしいのが、こたびの東日本大震災であったろう。就中、あの福島第一原子力発電所の事故こそは未曾有にして絶後たるべき大悲劇であった。しかし私どもは、なによりも「失敗に学ぶ」ということが肝要であって、特に今まで原子力安全神話というものを無条件に信じ込まされていた現実こそが、じつはもっとも克服さるべき悲惨事なのであった。
私自身の立場を明確にしておけば、原発は可及的速やかに全廃するのが人として正しい道だと信ずる。なぜならあの恐るべき死の灰、すなわち放射性廃棄物を始末する方法がないからだ。そこに目をつぶって原発は安価であると強弁してきたところに、もっとも根深い病巣があったものと考えられる。
さて、この本は、その福島の原発惨事が、どのようにして発生し、どのように悪化し、さらにその淵源をどこに求むべきかという歴史的考察にまで踏み込んで考察した労作である。もと東京新聞の連載に加筆したものだが、その取材や執筆の態度は極めて公正であり、思想的に偏向することもなく、ジャーナリストの良心に従って、まさに坦々と粛々と現実に向き合っている。
この冷静で公正な態度が、実は原発問題にとっては最も大切な要諦であって、だからこそ、私どもはこの本を信じることができる。そして、それは、いままで安全神話の尻馬にのって現実を直視してこなかったという、ジャーナリストとしての痛切な自省から発している。されば、すべての議論はここから始むべく、失敗に学ぼうとせぬ「政治的判断」は則ち亡国の策というべきである。