書評
『清川妙の手紙ものがたり』(清流出版)
手紙は良いなあ!
このごろはなんでもメールで、なにやら味気ない世の中になった。じつは、私は人後に落ちない手紙好きで、かつてイギリスに留学中に彼の地から東京の家族に宛てて書いた手紙が一年で百通あまり、それも一通が原稿用紙にしたら五六枚にもなるような長いものであったから、家族は毎日その長くて重い手紙を愉しみにしていたという。今読み返しても、それぞれの手紙を書いた時のことが彷彿と蘇ってくるのは、なんといっても手紙の効用である。メールではとてもこうはいかない。
さて、つい最近『清川妙の手紙ものがたり』という本を読んだ。まだ書店に出たばかりの新刊書だが、この本は、手紙の書き方とか、そういうような性格の書物ではない。
すべてが実際に清川さんに贈られた手紙をテーマに、それぞれの手簡についての、心温まる、また時にはしんみりと涙ぐましい思いのするエピソードが、春風のような文体で綴られている好箇の手紙エッセイなのだ。ふと、どの手紙から読み始めても、もう一つ、その次も、と後を引いてどんどん読んでしまう。
ここには二十一人の人の手紙にまつわる物語が集められているのだが、そのすべてを一言以て之を蔽わば、「思い邪(よこしま)無し」ということであろう。人を傷つけるような手紙を書く人は、心が貧しい。しかし、心の豊かな人の手紙は、なによりも人を勇気づけ励ますのだ。
そんな消息を、この文どもの物語が教えてくれる。しかも、その手紙の実物が美しいカラー図版で挿入されているのは、かえすがえすも好ましい。読んでいるうちに、私もまた手紙を書きたくなった。
初出メディア

スミセイベストブック 2013年2月号
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