書評
『乾杯!ごきげん映画人生』(清流出版)
面白い挿話満載の回想録
今年82歳になるベテラン映画監督・瀬川昌治が縦横に語った回想録である(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2007年)。渥美清主演の「列車」シリーズ、フランキー堺主演の「旅行」シリーズでヒットを連発し、大映テレビ製作の「スチュワーデス物語」で話題をさらった名監督だが、自分がいかに演出に工夫をこらしたかといった手柄話はほとんどなく、新東宝の助監督時代から接してきた多くの大監督や名優奇優珍優とのユーモラスな挿話が大半を占める。お人柄の良さであろう。日本映画がまだ若かった頃の楽しさと熱気が生き生きと伝わってくる。
学習院高等科で同じ映画狂の三島由紀夫先輩と親しく交わり(本書に描かれる三島の素顔はとても印象的だ)、東大英文科に進んで六大学野球で三割バッターになるという映画以前の経歴も興味深いが、撮影所一態度のデカい新人・丹波哲郎とか、台詞(せりふ)を憶(おぼ)えずセットにカンニングペーパーを貼(は)る三木のり平とか、平気で信じがたい嘘(うそ)をつく三國連太郎とか、登場人物の面白さは瀬川映画を超えるものさえある。
だが、そうしたアナーキーな現場の緊張した人間関係こそが映画を支える力なのだという確信が全編を貫いて、この本の類(たぐい)まれな躍動感を生みだしている。
朝日新聞 2007年2月25日
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