書評

『大江健三郎論 怪物作家の「本当ノ事」』(光文社)

  • 2024/07/08
大江健三郎論 怪物作家の「本当ノ事」 / 井上 隆史
大江健三郎論 怪物作家の「本当ノ事」
  • 著者:井上 隆史
  • 出版社:光文社
  • 装丁:新書(328ページ)
  • 発売日:2024-02-15
  • ISBN-10:4334102239
  • ISBN-13:978-4334102234
内容紹介:
「奇妙な仕事」以降、常に文学界の先頭を走り続けてきた大江健三郎。「飼育」で芥川賞、『万延元年のフットボール』で谷崎潤一郎賞、『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』で読売文学… もっと読む
「奇妙な仕事」以降、常に文学界の先頭を走り続けてきた大江健三郎。「飼育」で芥川賞、『万延元年のフットボール』で谷崎潤一郎賞、『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』で読売文学賞、そして九四年には、川端康成についで日本で二人目のノーベル文学賞受賞者となった。「民主主義者」「平和主義者」と捉えられている大江。だが、大江をそうした物差しだけで測ってよいのだろうか。従来の大江像に再考を迫る。
著者は三島由紀夫の研究家。大江健三郎を避けてきた。最近読み始めその怪物性に驚く。≪本書で私が提示した大江像は、民主主義者、平和主義者として一般に共有されている大江像とは大きく異なる≫のだ。

どこが怪物か。大江は皇国教育を受けた後、フランス文学にかぶれて小説家になった。翻訳文体で見かけは近代的だが、裏に天皇主義者の本性を隠している。三島はそれを見抜き、自決した。大江には宿題が残された。「本当ノ事」を書いて民主主義、平和主義の仮面を被った自分の正体を暴き、自分を罰するのだ。

ならば私小説にならないか。その歯止めに大江は全体小説を目指す。山口昌男流の人類学の図式を借りた神話世界を展開する。三島の端正で鋭利な文体とも、村上春樹の簡素で透明な文体とも違った、誠実で不器用な文体の『水死』は、著者によれば『万延元年のフットボール』と並ぶ傑作だ。本書はついに≪大江の内側から大江を読≫む域に達する。

本書はこうして大江の像を大胆に塗り替え、戦後日本の内実を見つめ直す。作品に新たな生命を与え、文学の可能性を拡げてくれている。まさに批評のお手本のようである。
大江健三郎論 怪物作家の「本当ノ事」 / 井上 隆史
大江健三郎論 怪物作家の「本当ノ事」
  • 著者:井上 隆史
  • 出版社:光文社
  • 装丁:新書(328ページ)
  • 発売日:2024-02-15
  • ISBN-10:4334102239
  • ISBN-13:978-4334102234
内容紹介:
「奇妙な仕事」以降、常に文学界の先頭を走り続けてきた大江健三郎。「飼育」で芥川賞、『万延元年のフットボール』で谷崎潤一郎賞、『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』で読売文学… もっと読む
「奇妙な仕事」以降、常に文学界の先頭を走り続けてきた大江健三郎。「飼育」で芥川賞、『万延元年のフットボール』で谷崎潤一郎賞、『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』で読売文学賞、そして九四年には、川端康成についで日本で二人目のノーベル文学賞受賞者となった。「民主主義者」「平和主義者」と捉えられている大江。だが、大江をそうした物差しだけで測ってよいのだろうか。従来の大江像に再考を迫る。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年3月9日

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