書評

『大人問題』(講談社)

  • 2024/10/26
大人問題 / 五味 太郎
大人問題
  • 著者:五味 太郎
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(216ページ)
  • 発売日:2001-05-08
  • ISBN-10:4062731614
  • ISBN-13:978-4062731614
内容紹介:
大人は有害である。いじめ、閉じこもり、不登校…子供問題は世間を気にし、教えたがり、試したがる大人に問題がある。子供は大人の充足のためのものではない。新人、ルーキーだ。「これから何を… もっと読む
大人は有害である。いじめ、閉じこもり、不登校…子供問題は世間を気にし、教えたがり、試したがる大人に問題がある。子供は大人の充足のためのものではない。新人、ルーキーだ。「これから何をするんだろう」「いつ化けるかな」大人は緊張し、楽しみに見守るサポーターになろう!心がほぐれ、元気の出るユニークな子供論。

目次
とにもかくにも心穏やかではない大人たち
もうとっくにすっかり疲れきっている大人たち
なんだかんだと子どもを試したがる大人たち
どうしても義務と服従が好きな大人たち
どんなときでもわかったような顔をしたい大人たち
他をおとしめても優位を保ちたい大人たち
いつもそわそわと世間を気にする大人たち
よせばいいのにいろいろと教えたがる大人たち
それにしても勉強が足りない大人たち
いつのまにか人間をやめてしまった大人たち
二五年前に刊行された本だが、こんな箇所を引用すれば、今こそ読むべき本だと伝わるはず。なので、「なつかしい一冊」ではない。選書ミスだ。

この国のキーワードは『そういうことになっている』というやつです。

『ちょっと変だな』『なんで、そうなるの』なんて思って質問したりすると、だいたい担当者は『そういうことになってるんですよね』と言います。

もうやることになっているんです、それに、決めたのは私でありませんし、ここまできてしまったんだから仕方ないでしょう……この国を動かそうとする人が開き直る時に有効活用するのが「そういうことになっている」という考え方だ。いや、それは考え方ですらない。人のせいにするためのテクニックだ。ずっとこれに翻弄されている。

絵本作家・五味太郎が、最近の子どもは大丈夫だろうかと頭を悩ませている大人に向けて、そもそも大人のほうが問題ではないだろうか、と投げかける一冊。たとえば、教育について、「そもそも『わかった』人間が『わからない』人間に教えていくという今の教育の構造が、全部まちがってるんだと思います」と書く。自由とは、友情とは、家族とは、と問いを浮上させた子どもを前に、大人は模範解答を押し付けてしまう。選定図書、指定図書、課題図書、それを五味太郎は「辛気くさいもの」と言い切る。だって、「いつどこでどんな本に出会うかというスリリングさが本の命」だから。

ある文章の感想を五十字以内で述べなさい、という問いかけに、「べつに。」と答えた子どもがいた。それを知り、「しみじみします。まったく同感です」。算数の問題で、兄が徒歩で家を出発、しばらくして弟が自転車で出発、それぞれ駅に向かったが、弟が兄に追いつくのは駅の何メートル前になるか、と問う。それを読んだときに、「なんで弟を待ってやれないんだよ」とか「別々に駅に何しに行くんだろう」と思える人は「いい人です」、そして、「そのうち必要があれば、たぶんなんとかその問題もこなす人々です」。大人になると、こういう考え方を失い、子どもから消そうとする。

人と違ったことをしたくない、みんながしていることをしたい、とにかく普通でいたい、と考える人が多すぎる。それを五味太郎は「平均地獄」と称している。地獄から抜け出そうともせずに、むしろ、子どもたちを地獄に招いている。それが、大人になるってことなのか。そんなの嫌だ、と思いながら繰り返し読む。問題なのは大人だ。
大人問題 / 五味 太郎
大人問題
  • 著者:五味 太郎
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(216ページ)
  • 発売日:2001-05-08
  • ISBN-10:4062731614
  • ISBN-13:978-4062731614
内容紹介:
大人は有害である。いじめ、閉じこもり、不登校…子供問題は世間を気にし、教えたがり、試したがる大人に問題がある。子供は大人の充足のためのものではない。新人、ルーキーだ。「これから何を… もっと読む
大人は有害である。いじめ、閉じこもり、不登校…子供問題は世間を気にし、教えたがり、試したがる大人に問題がある。子供は大人の充足のためのものではない。新人、ルーキーだ。「これから何をするんだろう」「いつ化けるかな」大人は緊張し、楽しみに見守るサポーターになろう!心がほぐれ、元気の出るユニークな子供論。

目次
とにもかくにも心穏やかではない大人たち
もうとっくにすっかり疲れきっている大人たち
なんだかんだと子どもを試したがる大人たち
どうしても義務と服従が好きな大人たち
どんなときでもわかったような顔をしたい大人たち
他をおとしめても優位を保ちたい大人たち
いつもそわそわと世間を気にする大人たち
よせばいいのにいろいろと教えたがる大人たち
それにしても勉強が足りない大人たち
いつのまにか人間をやめてしまった大人たち

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2021年12月18日

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