書評
『快感原則の彼岸―自我論集』(筑摩書房)
シュルレアリストと呼ばれた夢のコレクターたちも私淑していたフロイトは、抑圧的な性モラルの支配下にあったウイーンのブルジョワ社会に対する一つの挑戦として、ヒステリーの根底にある性的欲求不満を精神分析によって暴いた。しかし、性的欲求の充足だけでは説明のつかない症例があり、自らの理論を修正して、死の欲動という概念をつくった。
ところで、フロイトは、個々の無意識にしまわれていた死の欲動が国家単位で発揮されてしまった第一次世界大戦を見ている。自己の権利を国家に譲り渡して、存在の根拠を確保しようとした個人は、いくら理性を保とうが、国家単位の破壊衝動には立ち向かえない。国家は、理性的な個人を原始人に押し戻し、その本能を国家に奉仕させようとする。フロイトの理論はアメリカで受け容れられたが、ヒステリーや分裂病の治療にはその理論より戦争のほうが効果的だったりするのは、個人が権利を国家に委ねているがゆえだ。恒常的な平和は国家間においては望むべくもないが、少なくとも戦争がなくならない根本的原因がフロイトによって暴かれている以上、それを理性的に回避する手立てはある。
【この書評が収録されている書籍】
ところで、フロイトは、個々の無意識にしまわれていた死の欲動が国家単位で発揮されてしまった第一次世界大戦を見ている。自己の権利を国家に譲り渡して、存在の根拠を確保しようとした個人は、いくら理性を保とうが、国家単位の破壊衝動には立ち向かえない。国家は、理性的な個人を原始人に押し戻し、その本能を国家に奉仕させようとする。フロイトの理論はアメリカで受け容れられたが、ヒステリーや分裂病の治療にはその理論より戦争のほうが効果的だったりするのは、個人が権利を国家に委ねているがゆえだ。恒常的な平和は国家間においては望むべくもないが、少なくとも戦争がなくならない根本的原因がフロイトによって暴かれている以上、それを理性的に回避する手立てはある。
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