解説
『桜の園・三人姉妹』(新潮社)
「チエホフを思へ、『櫻の園』を思ひ出せ」
身代金を自ら払って解放農奴から商人となった父の子・チェーホフは、ロシアの新しい階層に属した。だが彼は、新興階層の気遅れと得意、ともに持たなかった。誰も愛せず、しかるに誰からも離れがたい、熱情というより、そんな持続する冷情を生涯つらぬいた。1903年秋に完成した「桜の園」は、翌04年1月17日、チェーホフ44回目の誕生日に初演された。3週間後日露開戦。さらに5ヵ月のち、乃木希典(まれすけ)第三軍の旅順総攻撃準備中に病没した。太宰治は、疎開先の津軽の故郷で終戦を迎え、翌46年、占領政策による農地解放に遭遇した。旧家の重圧を解かれる喜びと、ある階層の落日に立ち合う寂寥(せきりょう)が交錯する、その井伏鱒二宛の手紙。「私の生家など、いまは『櫻の園』です、あはれ深い日常です」
内容解説
急変してゆく現実を理解せず華やかな昔の夢におぼれたため、先祖代々の土地を手放さざるを得なくなった貴族階級の、夕映えのごとくに消えゆく哀愁を捉えて、演劇における新生面の頂点を示す「桜の園」。単調な田舎生活から脱け出してモスクワに行くことを唯一の夢とする三人姉妹が、仕事の悩みや不幸な恋愛などを乗り越え、真に生きることの意味を理解するまでの過程を描いた「三人姉妹」。【この解説が収録されている書籍】
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