書評

『アボリジニーの国―オーストラリア先住民の中で』(中央公論社)

  • 2017/07/09
アボリジニーの国―オーストラリア先住民の中で / 中野 不二男
アボリジニーの国―オーストラリア先住民の中で
  • 著者:中野 不二男
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:新書(214ページ)
  • 発売日:1985-01-00
  • ISBN-10:4121007530
  • ISBN-13:978-4121007537
内容紹介:
豊かな国オーストラリアに、迫害を受けつづけてきている先住民、アボリジニーがいる。日本人では初めて、彼らに友人として受けいれられた著者は、五百以上の部族、三百以上の言語をもつアボリ… もっと読む
豊かな国オーストラリアに、迫害を受けつづけてきている先住民、アボリジニーがいる。日本人では初めて、彼らに友人として受けいれられた著者は、五百以上の部族、三百以上の言語をもつアボリジニーの内奥に入りこんで調査を続けてきた。最下層にあえぐ都市のアボリジニー、地方で酒を追放して繁栄するセツルメント、日本人との交流。複合民族国家の中で、伝統文化の復興をはかりつつ共存と自立をめざすアボリジニーの実態を紹介する。
北米のインディアン、スペインや東欧のジプシー、日本のアイヌ民族、そしてオーストラリアのアボリジニーなど、少数民族の問題は文明社会の取り組むべき古くて新しいテーマといえる。本書は知られざる先進国オーストラリアのなかで、さらに知られることの少ないアボリジニー問題について書かれた、貴重な報告書だ。

アボリジニー(ないしアボリジナル=原住民を意味する)は、オーストラリアに白人が入植する何万年も前から、この大陸に住みついている先住民族である。白人がやって来るまでは、ほとんど石器時代と同様の生活を送っていたというから、文明人との出会いが彼らにとってどれほどのカルチャーショックであったかは、想像にかたくない。現在彼らは政府の保護と補助のもとに、無理やり文明社会への同化を強要されているらしいが、著者によれば最近彼らも民族意識に目覚め、若者を中心に「アボリジナル・ルネサンス」が始まっているという。

われわれが、アボリジニーについて知っていることは、ごく限られている。せいぜいブーメランを操る原住民、といった程度の知識があればいい方だろう。かつてウィンブルドンの女子テニスで優勝したイヴォンヌ・グーラゴンや、ファイティング原田と戦ったボクサーのライオネル・ローズが、アボリジニーだったことすら知られていない。

本書はそうした基本的なことから説き起こして、アボリジニーの現状を分かりやすく紹介、解説している。著者はオーストラリア国立原住民研究所準研究会員の肩書を持ち、政府機関のバックアップのもとに本格的にアボリジニーの調査研究に取り組み、その一端をここに披露したのである。したがってこのリポートは、新聞記者が駆け足で取材したり、オーストラリア在住経験者が聞きかじりで書いた裏話とは、一味も二味も違う。

著者のアボリジニーに対する態度はきわめて率直、かつ積極的である。甘っちょろい同情心などなまじ見せないだけに、いささかドライな印象さえ受けるが、著者が彼らに注ぐ暖かい眼差しは自ずと行間からにじみ出て来る。著者のアボリジニーに対する認識は、必ずしも楽観的ではないが、未来へ向けての希望を明確に示しており、読後感は非常にさわやかだ。アボリジニーでも、あまり食べなくなったといわれる蛾の幼虫や、とかげのフライに果敢に挑戦する著者のバイタリティも、ほほえましく胸を打つ。真珠貝採取潜水夫の日本人とアボリジニー女性との結婚、二人の間に生まれた混血児の生活ぶりと苦闘など、これまでほとんど伝えられたことのないエピソードも交じり、興味深く読める。

アボリジニーについて書かれた本はこれまでもいくつかあり、最近ではジェフリー・ブレイニーのそのものずばり『アボリジナル』(サイマル出版会)といった好著も目につく。しかし本書は日本人によるリアルタイムの肉弾リポートとして、オーストラリアに興味を持つ人には必読の入門書といってよいだろう。

アボリジナル―オーストラリアに生きた先住民族の知恵 / ジェフリー・ブレイニー
アボリジナル―オーストラリアに生きた先住民族の知恵
  • 著者:ジェフリー・ブレイニー
  • 翻訳:越智 道雄,高野 真知子
  • 出版社:サイマル出版会
  • 装丁:単行本(292ページ)
  • 発売日:1984-12-00
  • ISBN-10:4377306553
  • ISBN-13:978-4377306552

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【この書評が収録されている書籍】
書物の旅  / 逢坂 剛
書物の旅
  • 著者:逢坂 剛
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(355ページ)
  • 発売日:1998-12-01
  • ISBN-10:4062639815
  • ISBN-13:978-4062639811
内容紹介:
「掘り出し物」とは、高値のつくべき古本を安く探し出すことではなく、自分一人にとって、掛けがえのない価値のある本と出会うこと。世界一の古書店街、神保町を根城とする名うての本読みが、自信をもってすすめる納得の本、本、本。作品別の索引がついた、絶対に面白い本の読み方、楽しみ方を綴る書物エッセイ。

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アボリジニーの国―オーストラリア先住民の中で / 中野 不二男
アボリジニーの国―オーストラリア先住民の中で
  • 著者:中野 不二男
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:新書(214ページ)
  • 発売日:1985-01-00
  • ISBN-10:4121007530
  • ISBN-13:978-4121007537
内容紹介:
豊かな国オーストラリアに、迫害を受けつづけてきている先住民、アボリジニーがいる。日本人では初めて、彼らに友人として受けいれられた著者は、五百以上の部族、三百以上の言語をもつアボリ… もっと読む
豊かな国オーストラリアに、迫害を受けつづけてきている先住民、アボリジニーがいる。日本人では初めて、彼らに友人として受けいれられた著者は、五百以上の部族、三百以上の言語をもつアボリジニーの内奥に入りこんで調査を続けてきた。最下層にあえぐ都市のアボリジニー、地方で酒を追放して繁栄するセツルメント、日本人との交流。複合民族国家の中で、伝統文化の復興をはかりつつ共存と自立をめざすアボリジニーの実態を紹介する。

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初出メディア

週刊東洋経済

週刊東洋経済 1985年2月23日

1895(明治28)年創刊の総合経済誌
マクロ経済、企業・産業物から、医療・介護・教育など身近な分野まで超深掘り。複雑な現代社会の構造を見える化し、日本経済の舵取りを担う方の判断材料を提供します。40ページ超の特集をメインに著名執筆陣による固定欄、ニュース、企業リポートなど役立つ情報が満載です。

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