書評

『熊本城の被災修復と細川忠利 ―近世初期の居城普請・公儀普請・地方普請―』(熊本日日新聞社)

  • 2018/06/01
熊本城の被災修復と細川忠利 ―近世初期の居城普請・公儀普請・地方普請― / 後藤典子
熊本城の被災修復と細川忠利 ―近世初期の居城普請・公儀普請・地方普請―
  • 著者:後藤典子
  • 出版社:熊本日日新聞社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(232ページ)
  • 発売日:2017-12-26
  • ISBN:4877555684
内容紹介:
加藤家の後を受け、熊本城の被災に立ち向かう明君・忠利。城の修復と国の支配に打ち込んだ激動・驚愕の9年間を描く。「城が見苦しいのはどこも一緒だ」と言い、「似相(にあい)の粗相な屋敷でいい」と言っていたけれども、そういった身の慎みを心掛け、領民の疲弊にならないように、国の疲弊にならないように配慮しながら、できる範囲で精いっぱいの居城普請・作事に努めたのが、細川忠利をはじめとする近世初期の国持大名だったのである。(本文より)

公文書でうそつく者は公文書に泣く

城は地震の記憶装置である。地震で揺すられると、城の石垣は崩れ、ゆがむ。それを調べると、過去の地震の実態に迫れる。また石垣や建物が壊れると、修復がなされる。そうすると、古文書に記録され、一層、昔の地震のことがよくわかる。ちょうど2年前、2016年4月14日と16日に、熊本で大地震が起きたのは記憶に新しい。それまでは、熊本は地震の心配が少ない土地だと思われていた。しかし、熊本城が地震でやられてから、熊本藩細川家の永青文庫や松井文庫所蔵の古文書をもとに、過去の地震を調べなおす研究がおこなわれた。本書はその成果である。

研究がなされてみると、江戸初期は、熊本は地震が少ないどころか、1625年の地震被害で、城がボロボロになっていたことがわかった。加藤清正の子孫に代わって、地震の7年後に熊本城に入城した細川忠利は「江戸城のほかに、これほど広いのを見たことがない」と、熊本城の立派さに驚く。ところが、この城は、塀は崩れ落ち、随所に穴があき、屋根は雨漏りがしていた。加藤氏は、城のメンテナンスができていなかったのである。「熊本は塀も直していないのか」と、忠利が前城主の加藤氏のだらしなさを批判する文書に、著者は着目している。細川家は、万事几帳面(きちょうめん)な家風である。渡されたボロ城を改修するため、さまざまな記録を残した。この1625年の熊本大地震は、相当な規模だった可能性がある。八代城にも「築きかけの石垣があるだけで、家は一切ない」と、細川三斎の書状にあることから、あるいは地震被害の名残りかもしれない、という著者の指摘は、地震史の新知見として注目しておきたい。

注目すべきは、この時の熊本大地震が一度では済んでいないことである。江戸初期は、現代と同じように、まず東北で大震災が起き、津波が襲った。それから、1625年に最初の熊本大地震が起き、その8年後の1633年に2度目の熊本大地震に見舞われている。歴史的経験でいえば、われわれも、まだ熊本での地震発生に警戒をゆるめてはいけない。もう一度来るとは、いえないが、歴史上は、もう一度、地震が来ている例があるからである。肝心なのは、その2度目に来る地震の前兆現象は、古文書に記録されていないか、ということである。本書には、その重要な情報が含まれている。2度目の大地震がくる直前に、1633年は正月にまず小田原で大地震がおきた。そして、2月末には、熊本藩主の忠利が「だいたい熊本も地震繁(しげ)き所です」と書状で述べている。そして、3月から5月にかけて、相当な地震の揺れをうけて、城や城下町が破壊されたことが、古文書からわかる。

古文書を読んできた者の、感触としては、であるが、2度目の熊本地震は、いきなり不意打ちを食らったというよりも、あとで考えれば、前兆となる小さな揺れの増加がまずあって、それから大きな地震に襲われ、余震が少なくとも5月まで続いた、というもののようである。だとするならば、われわれも、今後、熊本地方で、小地震の揺れが増加することがあれば、警戒を強め、減災対策につとめる必要がある、ということである。このように、古文書の記録は大切なものである。昨今、公文書の改ざんや廃棄が問題になっているが、公権力が作成する文書の適正な保存は、国民の生命財産を守るうえでも、大切なものである。

公文書の作成・保存・活用をないがしろにし、公文書で、うそをつく者は、公文書に泣く。

熊本城の被災修復と細川忠利 ―近世初期の居城普請・公儀普請・地方普請― / 後藤典子
熊本城の被災修復と細川忠利 ―近世初期の居城普請・公儀普請・地方普請―
  • 著者:後藤典子
  • 出版社:熊本日日新聞社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(232ページ)
  • 発売日:2017-12-26
  • ISBN:4877555684
内容紹介:
加藤家の後を受け、熊本城の被災に立ち向かう明君・忠利。城の修復と国の支配に打ち込んだ激動・驚愕の9年間を描く。「城が見苦しいのはどこも一緒だ」と言い、「似相(にあい)の粗相な屋敷でいい」と言っていたけれども、そういった身の慎みを心掛け、領民の疲弊にならないように、国の疲弊にならないように配慮しながら、できる範囲で精いっぱいの居城普請・作事に努めたのが、細川忠利をはじめとする近世初期の国持大名だったのである。(本文より)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2018年4月15日

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