書評
『セックスキラーズ』(中央アート出版社)
人間の心の闇を垣間見る
最近、殺すのは「誰でもよかった」などという、わけの分からない殺戮事件が頻発して世間を震撼せしめている。いっぽうで、兄が妹を殺して死体を切り刻んだ、などという猟奇事件が、これまた頻々と起る。まったく人間の心というものは、いったいどういうふうになっているのであろうと、ふと背筋の寒くなるのを憶えずにはいられない。
本書は、英国の犯罪ジャーナリスト、ノーマン・ルーカスの手になる、主にイギリスの性犯罪殺人の事件簿である。ここに集められた犯罪はいずれも非常に猟奇的で目を背けたくなるものばかりだが、その犯人は、かならずしも「みるからに異常」な人物ばかりではない。たとえば、ノーフォークで爛れた愛欲生活の末に愛人を薬物中毒死させた医師ピーター・ドリンクウォーターは、ケンブリッジ大学で医学を修めた秀才中の秀才であり、ハンサムで物静かな紳士であった、という。
そういう表の顏の背後には、酒や薬物に溺れ、猟奇的な性欲に身を任せていた裏の人格があったのだ。
こういう一連の犯罪を眺めていると、現今の異様な事件のあれこれが決して「現代的」な特異性に裏付けられたものではなくて、もっと根源的な「なにか」に起因するものであることが想像される。だから、無差別大量殺人などの凶悪犯罪を単純に社会のゆがみなどに結びつけて解釈するのは、かならずしも当を得ないのではなかろうかと思えてくる。
その意味で、人間の心にひそむ闇を垣間見せてくれるこういう本は、読後感かならずしも爽やかではないけれど、敢て読んでみる価値がある。いつもながら、河合修治氏の翻訳は見事で、まことに読みやすい。
初出メディア

スミセイベストブック 2009年4月号
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