書評
『ホスト万葉集 嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒 こんな源氏名サヨナライツカ』(講談社)
「自粛警察」に「他県ナンバー狩り」。コロナ禍で生まれたイヤな言葉はいろいろあるけれど、一番ひどいのは「夜の街」だろう。いわゆる“接待を伴う飲食店”が感染拡大の元凶であるかのように、行政が喧伝した。ろくに休業補償もしないで。マスコミもそれに乗り、差別と憎悪を煽った。「職業に貴賤なし」なんてウソだったんだね。
『ホスト万葉集』(短歌研究社発行、講談社発売・1430円)はホストたちによる歌集。新宿・歌舞伎町の元ナンバーワン・ホストで、いまは多数のホストクラブやバーなどを経営する手塚マキと、彼の店で働く75人のホストたちが詠んだ短歌295首を収録している。
彼らは毎月、歌会を開いている。きっかけは手塚が経営する書店で行った小佐野彈の歌集発売イベント。歌会はコロナ禍のなかでもビデオ会議システムを使って続けられた。2年近くの間に約900の歌が詠まれ、歌会の選者である小佐野と俵万智、野口あや子の3歌人がこの本のために選歌・構成した。
歌舞伎町一番街のアーチの前にホストが並ぶ表紙を見たときは、キワモノかと思った。歌われているのは、クラブの中の日常であり、客への思いである。笑ってしまうコミカルなものもあれば、人生の本質を突いていると感じるものもある。一首一首を読むうちに、ここにあるのは短歌の本質ではないかと考え直した。
ホストクラブは疑似恋愛の空間である。客もホストも、それが虚構だという前提で言葉を交わす。心をつかめば、お金をたくさん使ってくれる。しかし、慣れと甘えが生じると客はツケで飲むようになり、ときに回収できなくなる。そのスリルが彼らの短歌から伝わってくる。ホストクラブは高度な娯楽であり、優れた文化ではないか。
<歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街>とホストのひとり、江川冬依は詠む。生活の手段が奪われるという意味で、「殺される」はけっしてオーバーではない。不要不急が人生に潤いを与えるのに。
『ホスト万葉集』(短歌研究社発行、講談社発売・1430円)はホストたちによる歌集。新宿・歌舞伎町の元ナンバーワン・ホストで、いまは多数のホストクラブやバーなどを経営する手塚マキと、彼の店で働く75人のホストたちが詠んだ短歌295首を収録している。
彼らは毎月、歌会を開いている。きっかけは手塚が経営する書店で行った小佐野彈の歌集発売イベント。歌会はコロナ禍のなかでもビデオ会議システムを使って続けられた。2年近くの間に約900の歌が詠まれ、歌会の選者である小佐野と俵万智、野口あや子の3歌人がこの本のために選歌・構成した。
歌舞伎町一番街のアーチの前にホストが並ぶ表紙を見たときは、キワモノかと思った。歌われているのは、クラブの中の日常であり、客への思いである。笑ってしまうコミカルなものもあれば、人生の本質を突いていると感じるものもある。一首一首を読むうちに、ここにあるのは短歌の本質ではないかと考え直した。
ホストクラブは疑似恋愛の空間である。客もホストも、それが虚構だという前提で言葉を交わす。心をつかめば、お金をたくさん使ってくれる。しかし、慣れと甘えが生じると客はツケで飲むようになり、ときに回収できなくなる。そのスリルが彼らの短歌から伝わってくる。ホストクラブは高度な娯楽であり、優れた文化ではないか。
<歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街>とホストのひとり、江川冬依は詠む。生活の手段が奪われるという意味で、「殺される」はけっしてオーバーではない。不要不急が人生に潤いを与えるのに。
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