書評
『フレッド・アステア自伝 Steps in Time』(青土社)
偉大なダンサーの品よい告白
アステアは人類の歴史が生んだ最も偉大なダンサーの一人だ。バレエ好きにとってニジンスキーがそうであるように、映画ファンにとってはアステアが「最高」なのだ。とはいえ、ニジンスキーはもはや見た者がいない伝説だが、アステアは誰でも見られる現実だ。「トップ・ハット」を、「バンド・ワゴン」を、「絹の靴下」を見よう。みんなアステアが最高だと認めるだろう。そのアステアが書いた自伝が日本語になった。読まずに死ねるか。むろん面白い挿話に事欠かない。彼のトレードマークであるあのオールバックの薄い髪がカツラだったというような話がさらりと語られる。
稀代の名コンビ、ジンジャー・ロジャーズとの「艦隊を追って」で、彼女はひどく重いビーズのドレスを着て踊った。ジンジャーの素早いターンで、数ポンドもの重さの袖がアステアの顎を直撃し、彼はグロッギーになりながら踊り続けた。画面を見ても、その痕跡もとどめないのだが。
ユーモアたっぷりに、淡々とした上品な語り口で、アメリカのショウビジネスを生き抜いた一人の男の人生が描かれる。その天然自然のエレガンスこそ、アステアのダンスの魅力の源泉でもあった。
朝日新聞 2006年11月19日
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