書評

『オカルティズム 非理性のヨーロッパ』(講談社)

  • 2019/05/14
オカルティズム 非理性のヨーロッパ / 大野 英士
オカルティズム 非理性のヨーロッパ
  • 著者:大野 英士
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(320ページ)
  • 発売日:2018-12-12
  • ISBN:4065142601
内容紹介:
二千年の歴史と断絶――科学の時代になぜ「神秘」はなくならないのか。闇の声を紡ぎ、歴史を裏側から読む、オカルティズム思想史!

理性と非理性を同じ「枠組み」で理解

構造主義の功績の一つは、合理的思想も言語・社会・時代風潮などの集団的無意識の「枠組み」に縛られていることを明らかにしたことにある。ところでこの枠組みの可視化によってもう一つ明らかになったことがある。合理的思想の反対物のはずのオカルティズムもまた「枠組み」の中にとどまっているという事実だった。とするなら、オカルティズムの分析で「枠組み」それ自体を照らし出すことも不可能ではない。これが本書の拠(よ)って立つ視座である。

では、分析によって明らかになったオカルティズムの特徴とはなにか?

一つはオカルティズムも時代によって「枠組み」が異なり、断絶があるということ。

ルネッサンス期には、古代ヘルメス学などの復興から生まれたルネッサンス魔術(自然魔術、ダエモン魔術、グノーシス派、カバラー)においてコレスポンダンス理論(二つのものに類似・相似といった照応関係があるという考え方)が一般的になり、宇宙や自然などのマクロコスモスと人間というミクロコスモスとの間には照応があると見なされた。星の運行法則や自然の神秘法則が読み解ければ、身体的・精神的な病は治療可能だし、人間の運命も占うことができる。また両者を結ぶ流体や精気の動かし方を知れば、宇宙を司(つかさど)る人格神に働きかけることも可能とされた。だが、古典主義時代には、同じ類似・相似の観察から出発しながらこれを合理的に解釈する科学思想が誕生したことにより、ルネッサンス魔術は衰退する。

しかし、オカルティズムは消滅していなかった。十八世紀に啓蒙(けいもう)主義世界観が支配的になり、フランス革命が起こって、「神が死ぬ」と、あたかもこれらの対抗模倣のように近代オカルティズムが生まれたからだ。著者によると、これは大きく左派オカルティズムと右派オカルティズムに分かれる。

左派オカルティズムとは、神が死んで空位となったところに理性崇拝(ロベスピエール)、人類愛(コント)、女性・性愛崇拝(フロラ・トリスタン、フーリエ)などを代置する流れで、一見、オカルティズムとは無関係のように見えながら、深層においてはオカルト的要素が見え隠れする。 一方、失われた神や王権の復興を望むカトリックや王党派の間で広まったのが右派オカルティズム。その原動力となったのは十九世紀後半にヨーロッパ各地に「出現」した聖母マリアだった。「聖母マリアは当時の神学者の警戒をよそに、しばしば古代以来の大地母神や処女神崇拝、『泉の女神』などの民衆崇拝と結合し、新たな『女神』となった」

ここからマリア派異端というべき右派オカルティズムが誕生し、最終的にはそこから反ユダヤ主義が発生してくる。

一方、メスマーの動物磁気説やブラヴァツキー夫人の心霊術などは、電磁波の発見やモールス信号などの科学的な発明・発見に類推の力を得て影響力を拡大してゆく。

さらに、合理的思考が強まれば対抗模倣としてオカルティズムも強くなるという流れは二十一世紀になってもやまず、サブカルに紛れて、オカルティズムは現在も拡大中である。

近代オカルティズムとは、神の死後、永遠の生や霊魂の不滅を信じたがる人々の思いが、科学的な手法さえ借りて蘇生させた神の代置物なのだろうか? あくまで理性にとどまりながら理性と非理性を同じ「枠組み」で理解しようとする総合的な試みである。
オカルティズム 非理性のヨーロッパ / 大野 英士
オカルティズム 非理性のヨーロッパ
  • 著者:大野 英士
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(320ページ)
  • 発売日:2018-12-12
  • ISBN:4065142601
内容紹介:
二千年の歴史と断絶――科学の時代になぜ「神秘」はなくならないのか。闇の声を紡ぎ、歴史を裏側から読む、オカルティズム思想史!

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