読書日記
夏休み企画〈書評でGo on a Trip!〉オセアニア・極地・世界旅行編

※Special Thanks!:書評推薦者 くるくるさん、hiroさん、やすだともこさん 、Fabioさん
オセアニアにGo!
【オーストラリア】
■ケイト・グレンヴィル『闇の河 THE SECRET RIVER』(現代企画室)
評者:鴻巣 友季子訳者は豪州の三神話として、(1)流罪となった者は元々イギリス階級社会の犠牲者だという解釈(2)罪びとが危険な未開の地で立派な開拓者となり更生するという筋書き(3)開拓者と先住民の邂逅(かいこう)・接触――を挙げているが、求心的な国家神話として機能してきたのは、(1)と(2)。本書でいえば、ソーンヒルがささやかな成功を収める所までだ。『闇の河』は中々折り合いのつかない(3)の部分に、全体の三分の二以上を割いている。(この書評を読む)
【オーストラリア】
■ナム・リー『ボート』(新潮社)
評者:阿刀田 高『ボート』は7編からなる短編小説集。冒頭の「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」はアイオワで小説を学んでいる主人公のところへベトナム戦争で苦しんだ父が訪ねて来る。戦争を熟知している父、体験のないままそれを小説のテーマにしようとしている主人公、家族間の境遇の差や感情の乖離もあって作品のタイトル通りのくさぐさが二人のあいだに見え隠れする。(この書評を読む)
【オーストラリア】
■岩城 けい『さようなら、オレンジ』(筑摩書房)
評者:石井 千湖日本人がアフリカから来た難民の視点で、異国暮らしの閉塞感を描く。書き方によっては独善的になってしまいそうだが、第二九回太宰治賞受賞作の『さようなら、オレンジ』はそう感じさせない。言葉とは何か。コミュニケーションとは何か。小説を通して真摯に考えているからだ。(この書評を読む)
【オーストラリア】
■リチャード・フラナガン『奥のほそ道』(白水社)
評者:角田 光代『奥のほそ道』は第二次世界大戦時、泰緬鉄道建設に捕虜としてたずさわった若き医師を中心に、その地獄のような日々をさまざまな角度から緻密に冷徹に描き出し、戦後、生き延びた人々の抱える空疎を、重みを持って描く。(この書評を読む)
【メラネシア】
■生江 有二『ガダルカナルの地図―ガ島戦錯誤の進撃路』(角川書店)
評者:逢坂 剛本書のテーマは、ガダルカナルで日本軍が米軍に敗れた最大の理由の一つは、正確な島の地図が用意されていなかったからではないかという疑問のもとに、当時軍の管理下で地図作りに従事していた印刷工やガ島戦の生き残り兵士を訪ね歩くという、文字通り足で稼いだ貴重なレポートである。(この書評を読む)
【ミクロネシア】
■野村 進『日本領サイパン島の一万日』(岩波書店)
評者:鹿島 茂戦後の我々は、サイパンというと「玉砕の島」「B29の出撃基地」という軍事的イメージを被せるが、これは少し違う。サイパンは移民が築いた南洋交易の中心地であり、「南洋の東京」として富み栄えていたのだ。 (この書評を読む)
【ミクロネシア】
■岡谷 公二『南海漂泊―土方久功伝』(河出書房新社)
評者:種村 季弘家族も友人知己も近代日本のエリートぞろいなのに、当人だけはわざとのように出遅れ、いつも半歩おくれてパッとしない。美校で彫刻を学び、かたわら従兄弟の土方与志の築地小劇場の設立を助けた。だれもがそのまま築地小劇場に参加すると思っていたのに、突然南方に消える。「自分を殺し」すぎて、ついに日本から消えてしまった人のように。(この書評を読む)
【サモア】
■デレク・フリーマン『マーガレット・ミードとサモア』(みすず書房)
評者:山折 哲雄文化人類学の分野で一世を風靡した「名作」が、実際にフタをあけてみると夢のような「神話」だったというお話である。マーガレット・ミードの「サモアの思春期」がそれだ。(この書評を読む)
【パプアニューギニア】
■ドン・クリック『最期の言葉の村へ:消滅危機言語タヤップを話す人々との30年』(原書房)
評者:武田 砂鉄村人は何度もやってくる著者を幽霊だと思い、村に変化をもたらす秘密を持つ人間だと認識されていく。「戻ってきた死人」として、死んだ父への手紙を託されることさえあった。(この書評を読む)
極地にGo!
【北極】
■角幡 唯介『極夜の探検』(福音館書店)
評者:福音館書店極夜の探検も、太陽や月や星や闇といった、もろもろの自然現象と本質的な関係をむすぶための壮大なプロジェクトでした。本質的な関係というのは、少々大げさな言い方をすれば、太陽や月や星がなければ自分の命を保つことがむずかしくなる、そういう関係です。こちらの命を脅かしにくるほどの闇の恐怖に震えることも、その一つのあらわれです。 (この書評を読む)
【南極】
■ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』(武田ランダムハウスジャパン)
評者:豊崎 由美死者の街という寓話と、世界の滅亡を描くデザスター小説、ふたつの読みごたえを備えたこの物語がもたらすのは、世界の消滅という悲劇を扱いながら、なぜか温かい感情だ。(この書評を読む)
世界旅行にGo!
【世界旅行】
■ペール・アンデション『旅の効用: 人はなぜ移動するのか』(草思社)
評者:出口 治明たくさんの人に会い、たくさん本を読み、多くの旅を重ねる。人間は「人・本・旅」でしか賢くなれない動物だと僕は思っている。ホモ・モビリタス(移動するヒト)という言葉があるが1万3千年前まで私たちは遊牧民だった。だから「変化がなければ心は消耗する」のだ。 (この書評を読む)
【世界旅行】
■小林 健『日本初の海外観光旅行―九六日間世界一周』(春風社)
評者:平松 洋子じつは主催は朝日新聞社。前代未聞の旅の中身を逐一打電して紙面で披露し、読者サービスと派手な宣伝効果を狙おうという一大企画なのだった。(この書評を読む)
【世界旅行】
■ポール・セルー『鉄道大バザール』(講談社)
評者:丸谷才一,木村尚三郎,山崎正和イギリス小説には、イギリス国外の研究とでもいうような一ジャンルがあるんですね。キプリングのインドに始まり、モームの太平洋南海地方、フォースターのインド、グレアム・グリーンの、これはまあ世界じゅう、オーウェルのビルマ、ダレルのアレクサンドリアというような調子で、世界じゅうの人間との接触を契機にして、イギリス自身を研究するという伝統があるわけですね。これはイギリス小説の過度の洗練による衰弱を補って、活力を与える作用をした。その方法をアメリカの小説家が学んで、旅行記という形式でこういうものを書いた。それは一種、アメリカの小説家の成熟をしめすもので、なかなかおもしろい読みものになっています。(この書評を読む)
【世界旅行】
■詩歩『死ぬまでに行きたい! 世界の絶景』(三才ブックス)
評者:速水 健朗本が生まれた経緯はおもしろい。考えたのはとある新米社員。フェイスブックでいくつ「いいね」が付くかを競う新人研修から生まれた企画だった。それがネットで何十万人の支持を得て、出版社が刊行を企画し、旅行会社が相乗りした。 写真はフォトストック業者などからかき集められている。コストを抑えたお手軽な一冊だ。でもだからこそおもしろい。(この書評を読む)
【世界旅行】
■ピーター・スピアー『せかいのひとびと』(評論社)
評者:俵 万智世界中の人々の、顔や髪や肌の違いにはじまって、おしゃれや趣味の違いが描かれている。いろんな国の、遊びや食べ物や家の様子も紹介される。仕事、言葉、性格、宗教、貧富や身分の差まで……。 (この書評を読む)
【世界旅行】
■玉村 豊『回転スシ世界一周』(光文社)
評者:岸本 葉子スシが受け入れられるには、魚を食べる習慣のあるなしは、関係ない。新しい文化情報にアンテナを張る人たちが多いところで、流行る。著者いわく、スシは「頭」で食うものなのだ。(この書評を読む)
【世界旅行】
■ガブリエーレ・ガリンベルティ『世界のおばあちゃん料理』(河出書房新社)
評者:平松 洋子少々枯れた印象を受けがちだけれど、原書のメインタイトル『IN HER KITCHEN』に、エネルギッシュな姿を感じる。何十年にもわたって家族の胃袋をつかまえ続ける年季の入った腕前は、かくも女性に魅力と存在感を与えるのだ。ページをめくりながら誇らしい気持ちになってくるのは、ほがらかで力強い写真の力だ。(この書評を読む)
【世界旅行】
■『世界を食べよう! ―東京外国語大学の世界料理―』(東京外国語大学出版会)
評者:平松 洋子なんと贅沢な一冊だろう。世界の食文化案内であり、食いしん坊を舌なめずりさせる読み物であり、旅のガイドであり、しかもレシピ付き。東アジアから始まってヨーロッパ、オセアニア、アフリカまでぐるり、いながらにして食卓の遊覧旅行だ。(この書評を読む)
【世界旅行】
■小松 義夫『地球生活記―世界ぐるりと家めぐり』(福音館書店)
評者:藤森 照信こうした地球上の珍しい住まい、面白い伝統の家についての本は、日本でも世界でもたくさん刊行されているが、これだけ全世界にわたり、いろんなタイプを大量に採集したのは前例がない。腰巻に「取材期間三十年、今世紀最高の一冊」と書かれているが、そう書きたくなる気持ちも分かる。かつて、博物学者たちが、地球上のすべての動植物を採集しようと探検に出かけたのと同じような情熱が、カメラマンの小松義夫をつき動かしたんだろう。(この書評を読む)
【世界旅行】
■ウラディミール・クリチェク『世界温泉文化史』(国文社)
評者:岸本 葉子こうしてみると、洋の東西を問わず、人々が温泉を、たんなる治療の場としてだけでなく、いかに付加価値をつけて楽しんできたかがわかる。その時代その時代の、健康神話のようなものが広まるのも、今と同じ。(この書評を読む)
【世界旅行】
■西 成彦 編訳『世界イディッシュ短篇選』(岩波書店)
評者:沼野 充義特筆すべきは、ユダヤ人が世界に離散していったのと並行して、イディッシュ文学も世界中で書かれてきたことだ。本書には、ロシア周辺・東欧だけでなく、フランス、南アフリカ、アルゼンチン、ブラジルを舞台にした作品まで収録されている。西氏がタイトルに「世界」をあえて冠したゆえんである。英語で世界の市場を席捲する文学だけが「世界文学」なのではない。(この書評を読む)
【世界旅行】
■アンドリュー・ショーン・グリア『レス』(早川書房)
評者:鴻巣 友季子レスがモロッコで新しい自作について、「サンフランシスコを歩き回るゲイの中年男の話です。そして、だから、彼の……彼の悲しみが……」と話すと、「白人で中年のアメリカ人の男が、白人で中年のアメリカ人の悲しみを抱えて歩き回るわけ?」と返される。あまりにマジョリティ側の人物で、同情できないというのだ。「ゲイでも?」と畳みかけても、「ゲイでも」と。(この書評を読む)
【世界旅行】
■アルベルト・マンゲル『図書館 愛書家の楽園』(白水社)
評者:鹿島 茂ブエノスアイレスの書店で勤務中、盲目のボルヘスと知り合い、本読み係として雇われ、ボルヘス的な宇宙に深く入り込んだ著者は二〇〇〇年、ついに夢をかなえてフランス・ロワール渓谷の丘に理想の書庫兼書斎をつくる。(この書評を読む)